2014英国観劇旅行
 
  No. 1 The Crucible 『るつぼ』      No. 2014-33-01
 

開演前、舞台上には木製の椅子が雑然といくつも置かれ、館内は薄暗く、照明に照らされたスモークが垣間見え、客席が平土間の舞台を円形状に囲む。 
開演前から低音の音楽が地鳴りのように腹の底までしみるようにして伝わってくる。 
開演とともに、登場人物全員が三々五々、死者の群れのように舞台上に登場し、虚空の一点を見つめて緊張の静寂が襲う。 
やがて、めいめいが舞台上の椅子を一人一つずつ持ち去って退場していく。 
続いて、頭に布を巻いて後ろに垂らした女たちが寝台を引いて運んでくる一方、男たちが机と椅子を運んでくる。 
女たちが泥にまみれた下着姿の少女を仰向けにして頭上高く担ぎあげてやってきて、少女を寝台の上に投げ捨てるようにして寝かしつける。 
少女はこの家の主人である牧師パリスの娘ベティで、彼女は長い間眠ったまま眼を覚まさない。 
パリスは読んでいた本の上に頭を乗せ、机の上にうつ伏せになって寝入っている。 
パリスの奴隷ティトゥバが、鳩が首を前後に動かして歩き回るような格好をして、半ば踊るような所作で寝台の周囲を歩きまわっているが、やがて眠っているベティを起こして自分の腕の中に抱きあげる。 
はっと目覚めたパリスがその様子を見つけてティトゥバを追い払い、ベティを眠りから覚まさせようと懸命に努めるが、空しい努力に終わる。 
ベティが眠りから目覚めないのは魔女のせいだという風評が広がっていて、ついには魔女の容疑者の裁判所への召喚となり、進行していく舞台は常に緊張感がみなぎっている。 
裁判の場では、パリスの姪アビゲイルが突然憑依したかのようにヒステリックな叫び声をあげると、参考人として召喚されている少女たちも一緒になって同じような声をあげ、狂ったように叫び始める場は壮絶で集団ヒステリーの恐怖を感じさせた。 
村人たちが次から次に魔女裁判で逮捕され召喚されていくが、魔術の行為を白状すれば釈放される。 
妻のエリザベスが魔女容疑で逮捕された夫のジョン・プロクターも、元プロクター家の女中でジョンとの情事で解雇されたアビゲイルと現在の女中メアリー・ウォーレンとの告発で逮捕される。 
プロクターは一旦魔術を認めるが、最後の署名を拒否して証言書を破棄してしまい、絞首刑のため引き立てられて行くが、その姿を見送るエリザベスとの最後の別れの場面は胸に迫る思いがし、圧巻の場であるが、この舞台の終わり方がそこで唐突的に閉じることで、激しい余韻に襲われる。 
この物語は、17世紀の終わりにマサチュセッツ州のセイレムで実際に起こった話に基づき、作品の書かれた背景には20世紀半ばのマッカーシズムがあるというが、それから半世紀過ぎた現代ではそんな時代背景やアレゴリー抜きで鑑賞しても、迫真的、強烈的な舞台に圧倒される。 
観劇の第一日目から衝撃的な舞台を観ることになって大満足することができた。 
演出家イェイル・ファーバーは、日本にも来日公演しているとプログラムにあった。 
上演時間は途中休憩20分を挟んで、3時間30分(19:30−23:00)。

 

<私の感激満足度> ★★★★★ 
<キャステイング> 
パリス:マイケル・トマス(Michael Thomas)
アビゲイル:サマンサ・コリー(Samantha Colley)
ジョン・プロクター:リチャード・アーミテイジ(Richard Armitage)
エリザベス・プロクター:アンナ・マデレィ(Anna Madeley)

 

(原作/アーサー・ミラー、演出/イェイル・ファーバー(Yael Farber)、
8月18日(月)夜、オールド・ヴィック劇場にて観劇。
チケット代:55ポンド、プログラム:4ポンド、座席:E列27番)

 

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