日本ではシェイクスピア以外のエリザベス朝演劇を見る機会がほとんどないに等しいので、それを観ることができるという期待感があった。
初めての作品のため予め原作を原文で読んだが、一度目は内容がまったくつかめず、二度目に読んで概要は理解できたものの話の展開の有機的なつながりがつかめず、舞台でそれがどのように表出されるか興味があった。
この物語は当時実際にあったことに基づく作品で、タイトルの「やかまし娘」というのは女性が男の服を着て剣をさげて劇場に現われ、煙草も吸うという破天荒な女スリ、モルを描いたもので、当時の人にとっては女性が男の恰好をしているだけで衝撃的な事件であった。
ところが、この作品を現代風に、といってもヴィクトリア朝時代の衣裳で演出しているため、女性が男装をするという当時の衝撃の感覚が失われてしまっているように思われた。
主筋は、セバスチャンが、恋人メアリーとの結婚を父親のサー・アレクサンダー・ウェングレイヴに反対されたため、やかまし娘のモルと結婚するという策略をすることで本来の目的を達しようとする。
それを父親がまた策略で阻止しようとするが、モルの計略で結局セバスチャンは恋人と結婚できるようになるが、その主筋に関連性のない寄せ集めの脇筋が入ってくるので、全体の有機的なつながりがなく、つかみどころのないのがこの作品の特徴でもある。
開演とともに、舞台はRoaring Girlの‘Roar’を表象するかのように、舞台暗転で激しい雷鳴のような音で始まる。
照明が入ると、舞台中央で椅子に座ったモルがプロローグの台詞を語り、終わりも同じようにしてモルがエピローグを語る。
寄せ集めのエピソードとしての場面展開に音楽を挿入してメリハリをつけ、舞台装置の転換を図っている。
奈落から可動式の装置がせり上がってきたりする舞台装置の転換などが、見どころと言えば見どころであった。
途中、原作にはない本水を使っての雨のシーンが挿入されたが、それはバンク・ホリディ・ジョークには必ず天気が崩れるというジョークだと後から人に聞いて知った。
脇筋の登場人物の名前にはニックネーム的な、その人物の特徴を表わす名前がつけられているのだが、劇中ではいまひとつその面白さを感じ取ることができなかった。
作品の性質上、当時の風俗で演出をして欲しいという期待が崩されたのが、この演出に対する最大の憾みであった。
上演時間は、休憩20分を挟んで2時間30分(19:30−22:00)。
<私の感激満足度> ★
<キャステイング>
モル:ライザ・ディロン(Lisa Dillon) |
(作/トマス・デッカー&トマス・ミドルトン、演出/ジョー・ディヴィィズ(Jo Davies)、
舞台装置/ナオミ・ドーソン(Naomi Dawson)、
8月21日(木)夜、スワン・シアターにて観劇。チケット代:16ポンド、プログラム:4ポンド、
座席:ギャレリー1(2階席)B列11番(止まり木式の高い椅子)
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