今年は数で言えば何と言っても「ハムレット」関連の上演が圧倒的で、また印象に残る公演が少なくなかった。また、例年の事ながら、「夏の夜の夢」の公演数は相変わらず多い。ピーター・ミルワード先生の言われるように、日本人は妖精と愛の物語がお好みで、「夏の夜の夢」はその両方を備えている。こちらの方も楽しい作品があった。
注目すべき点は「十二夜」が今年は例年になく集中して上演されたような気がする。目新しいところでは、鴻上尚史が、彩の国シェイクスピア・シリーズの公演で蜷川幸雄のピンチ・ヒッターで初めてシェイクスピアに挑戦したこと。
そこで僕の選んだ今年のベスト5。言うまでもないが、僕の観る範囲は限られているし、好みも独断と偏見の難を逃れるものではない。
1. ピーター・ブルック演出の 「ハムレットの悲劇」 (6月)
2. グローブ座カンパニー来日公演 「リア王」 (10月)
3. 平幹二朗がシェイクスピア初演出した 「冬物語」 (9月)
4. 鴻上尚史シェイクスピア初演出の 「ウインザーの陽気な女房たち」 (5月)
5. イオン・カラミトル演出の 「ヴェニスの商人」 (11月)
「ハムレットの悲劇」は演出の斬新さ、「リア王」は象徴性の高い演出とジュリアン・グローバーの演技、「冬物語」は平幹二朗の初演出と前田美波里のハーマイオニの生きた彫像の姿に感動、「ウインザーの陽気な女房たち」は、江守徹のフォルスタッフの演技力とスピード感あふれる新鮮な演出、「ヴェニスの商人」は中野誠也のシャイロックと舞台美術。
番外編としては、ミュージカル仕立ての作品に面白いものがあった。
1. |
鳥獣戯画の歌舞伎ミユージカル 「真夏の夜の夢」(4月)はとにかく面白いの一語につきる。 |
2. |
俳優座のミュージカルコメデイ「十二夜」(1月)は、21世紀を担う若手を中心にした舞台でフレッシュな感性 |
3. |
蜷川幸雄の 「ハムレット」(9月)は、中越司の舞台装置と、蜷川幸雄の変わらぬ自己革新と挑戦の心意気。 |
4. |
シェイクスピア・シアターの「ハムレット」の吉田鋼太郎に演技賞。 |
5. |
東演公演による「恋でいっぱい」は、「夏の夜の夢」「お気に召すまま」「空騒ぎ」の3つの作品を混成させた <恋のミュージカル>で楽しかった。 |
企画として面白かったのは、劇団扉座による「フォーテインブラス」と「ハムレット」の同時上演。また、東京シェイクスピア・カンパニーの「ポーシャの庭」も、10年後の「ヴェニスの商人」という設定で、その後のシャイロックの復活と成功が奇抜で、ポーシャとバッサーニオの現在の姿もユニークであった。
★ 映画で見るシェイクスピア
1月 |
「ハムレット」 マイケル・アルメレイダ監督・脚色、イーサン・ホーク(ハムレット)
舞台を感じさせない映像の「ハムレット」。ハムレットは芝居ではなく、映画(ビデオ)撮影が趣味。王国ではなく大企業をバックにしての現代劇。(恵比寿シネマ・ガーデンにて上映) |
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4月 |
「キング・イズ・アライブ」 クリスチャン・レヴリング監督
直接的にはシェイクスピアに関係ない。砂漠でバスが故障し、そこでのサバイバルの手段の一つとして、シェイクスピアの「リア王」の台詞を朗読することで、生きる力を得ようとする。(澁谷、シネマ・ライズにて上映)
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