私には「慰め」と「絶望」の二人の恋人がいて
それが二つの精霊のように私を絶えず誘(いざな)う
善玉の天使は立派な美しい男性
悪玉の精霊は色の黒い女性
女の悪霊はすぐにも私を地獄に落とそうと
善玉の天使を私から引き離そうと誘惑し
私の聖人君子を悪魔へと堕落させようと
彼女の邪まな虚栄心で彼の純潔心に言い寄る
私の天使が悪魔と変ずるかどうか
私には分からないし、確かなことも言えない
だが、二人は私から去って仲良くやっているので
私の天使は地獄にはまったと思っている
このことは疑いのみで確かなことだと言えない
悪玉の天使が火攻めで善玉の天使を追い出すまでは
【私の鑑賞】
詩人と青年とダ―クレディとの三角関係のソネット。
詩人と青年との恋は「慰め」「励まし」の恋であったが、詩人とダ―クレディの恋は詩人を「絶望」に陥れる恋でしかない。
彼女は詩人に振り向いてくれないだけでなく、今や彼の崇拝する青年をも奪ってしまった。
詩人は自分が愛する青年が彼女の地獄に陥ったことを嘆くが、それは詩人の嫉妬からくる想像でしかなく、事実として確かめられたことではない。
詩人はその想像の中で苦悶しているが、青年が自分と同じように彼女から捨てられ、放り出されたとき、自分の想像が事実だと分かるだろうと言う。13行目の「火攻め」は、梅毒を移す意味が含まれている。
嫉妬の詩であるが、どちらに対して愛の気持が強いのか、そこを考えるのが面白い。