シェイクスピアのソネット
 

144 三角関係

 

私には「慰め」と「絶望」の二人の恋人がいて

それが二つの精霊のように私を絶えず誘(いざな)う

善玉の天使は立派な美しい男性

悪玉の精霊は色の黒い女性

 

女の悪霊はすぐにも私を地獄に落とそうと

善玉の天使を私から引き離そうと誘惑し

私の聖人君子を悪魔へと堕落させようと

彼女の邪まな虚栄心で彼の純潔心に言い寄る

 

私の天使が悪魔と変ずるかどうか

私には分からないし、確かなことも言えない

だが、二人は私から去って仲良くやっているので

私の天使は地獄にはまったと思っている

 

  このことは疑いのみで確かなことだと言えない

  悪玉の天使が火攻めで善玉の天使を追い出すまでは

 

 

【私の鑑賞】

詩人と青年とダ―クレディとの三角関係のソネット。

詩人と青年との恋は「慰め」「励まし」の恋であったが、詩人とダ―クレディの恋は詩人を「絶望」に陥れる恋でしかない。

彼女は詩人に振り向いてくれないだけでなく、今や彼の崇拝する青年をも奪ってしまった。

詩人は自分が愛する青年が彼女の地獄に陥ったことを嘆くが、それは詩人の嫉妬からくる想像でしかなく、事実として確かめられたことではない。

詩人はその想像の中で苦悶しているが、青年が自分と同じように彼女から捨てられ、放り出されたとき、自分の想像が事実だと分かるだろうと言う。13行目の「火攻め」は、梅毒を移す意味が含まれている。

嫉妬の詩であるが、どちらに対して愛の気持が強いのか、そこを考えるのが面白い。