実を言えば眼ではおまえを愛してはいない
眼はおまえに多くの欠陥を見るから
だが眼が貶すものを愛すのは私の心
心は見た目に関係なく溺愛するのだ
また私の耳はおまえの声の調べを心地よしとせず
いやしい肌に快楽を求める気にもならない
また味覚や臭覚の欲求もお呼びでない
おまえとだけの官能の饗宴には
だが私の五つの智恵も五つの官能も
愚かな心がおまえに奉仕するのを止めることができない
心は身体を制御できずに
おまえの高慢な心の奴隷、惨めな従僕となる
ただこの病を私の利益だと考えるのは、女が
私に罪を犯させ、苦しみの罰を与えてくれるからだ
【私の鑑賞】
眼では打ち消しても、心は智恵も感覚も言うことを聞かず、詩人は彼女の奴隷となっている。それでも詩人は自分の恋の病をよしとするのはその苦しみを罰として与えられ、自業自得、自縄自縛となっているから。
恋するあまりに相手を否定したくなる気持は感情移入的に理解できる。
五つの智恵とは16世紀初めのイングランドの詩人、スティーヴン・ホーズが唱えたといわれる、思考力、想像力、空想力、判断力、記憶力のこと。五つの官能とは、視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚。