シェイクスピアのソネット
 

136 せめて名前だけでも

 

盲目の道化者、愛の神よ、おまえは私の眼に何ということをしてくれたのだ

眼は見ていても何を見ているのか分かっていない

眼は美とは何か知っていて、それがあるところを見ても

最悪なものを最善であると思いこむ

 

偏見で曇って堕落した眼が

男という男がみな停泊する湾に碇をおろすからとて

どうしておまえは眼の欺瞞から釣針をこしらえ

私の心の判断をひっかけようとするのか

 

どうして私の心はそれを私有地と考えるのか

それが広く世間の共有地であると分かっているのに

それとも私の眼は、それを見ていながら、それではないと言って

そのような醜い顔に美しい真実を着せるのか

 

  私の心と眼はこの正しい真実に関して誤っており

  今はこの虚偽という疫病にとり憑かれている

 

 

【私の鑑賞】

愛の心理とは不思議なもの、自分が愛するものを最高だと思う反面、なんでこんな女を好きになったのだと自分自身に嫌悪の情を抱く。

彼女は、すべての男性に愛想よく、誰に対しても懇ろとなり、自分ひとりのものではないと分かっていても、愛さざるを得ない。

愛とは偽りの疫病の病のようなもの、詩人はその疫病にとり憑かれた自分を自嘲する。