まったくあなたは酷い人
美を笠に着る女どもに劣らず残酷至極
あなたは私のことをよくご存知で、溺愛する私の心には
あなたがこの上なく美しく、大切な宝石であることを
それでも正直申せばあなたを見て人は言う
あなたの顔には恋の溜め息をつかせる力がないと
私にはそれが間違っていると言う勇気がないので
ひとり心に誓言する、それは間違っていると
それが嘘でない証拠には、誓ってもよいが
あなたの顔を思うだけで溜め息が止まらない
次から次の溜め息がその証人で
あなたの黒さは私の心の中ではこの上なく美しい
あなたの仕打ちを除けば邪まな黒さは何もなく
この中傷はあなたの行為から出るものだと思う
【私の鑑賞】
シェイクスピアの時代には「黒」は美の対象外。
それにもかかわらず、詩人が愛する肌の黒い彼女は、世間の美人のようにつれなく、傲慢。
彼女がそのように振る舞うのは、詩人がこの上なく彼女を愛し、尊んでいるのを知っているから。
彼女を見て人は言う、美人とはほど遠いと。
詩人はそれに表立って反論できないが、それでも心の中では彼女を美人だと確信している。
「蓼食う虫も好き好き」、「恋は盲目」とよく言われるが、そうと分かっていても夢中になるのが恋の性(さが)。
だが詩人の言いたいのは最後にある二行。
顔の美ではなく、行為を問題にしていて、彼女の不道徳的行為を非難している。