シェイクスピアのソネット
 

131 蓼食う虫も好き好き

 

まったくあなたは酷い人

美を笠に着る女どもに劣らず残酷至極

あなたは私のことをよくご存知で、溺愛する私の心には

あなたがこの上なく美しく、大切な宝石であることを

 

それでも正直申せばあなたを見て人は言う

あなたの顔には恋の溜め息をつかせる力がないと

私にはそれが間違っていると言う勇気がないので

ひとり心に誓言する、それは間違っていると

 

それが嘘でない証拠には、誓ってもよいが

あなたの顔を思うだけで溜め息が止まらない

次から次の溜め息がその証人で

あなたの黒さは私の心の中ではこの上なく美しい

 

  あなたの仕打ちを除けば邪まな黒さは何もなく

  この中傷はあなたの行為から出るものだと思う

 

 

【私の鑑賞】

シェイクスピアの時代には「黒」は美の対象外。

それにもかかわらず、詩人が愛する肌の黒い彼女は、世間の美人のようにつれなく、傲慢。

彼女がそのように振る舞うのは、詩人がこの上なく彼女を愛し、尊んでいるのを知っているから。

彼女を見て人は言う、美人とはほど遠いと。

詩人はそれに表立って反論できないが、それでも心の中では彼女を美人だと確信している。

「蓼食う虫も好き好き」、「恋は盲目」とよく言われるが、そうと分かっていても夢中になるのが恋の性(さが)。

だが詩人の言いたいのは最後にある二行。

顔の美ではなく、行為を問題にしていて、彼女の不道徳的行為を非難している。