シェイクスピアのソネット
 

119 悪行の恩恵

 

魅惑の妖婦の空涙をどれほど飲んだことか

その涙は地獄のように汚れたランビキから蒸留された

希望には恐怖、恐怖には希望をあてがい

勝ったと思ってはいつも負けていた

 

私の心は何というみじめな過ちを犯したことか

これほど幸せだったことはないと思っていたのに

私の眼球がそのあるべき眼窩から飛び出したのは

狂気を誘うこの熱病で錯乱したからではないか

 

これこそ悪行の恩恵!いまこそ私は真実を知る

善は悪によっていっそう善となり

壊れた愛が新たに建て直されるとき 

前よりはるかに、美しく、強く、大きくなる

 

  だから私は責められて幸せな気持に戻り

  悪行で失ったものの三倍のものを得るのだ

 

 

【私の鑑賞】

魅惑の妖婦とは、半身半鳥の海の精、サイレンのように、美しい声で男を寄せ付けては破滅させる毒婦―ダ―クレディを予兆するように思われる。

詩人は自分が犯した過ちで青年の愛を失うが、失った愛が修復されるときその愛は以前より一層強固なものとなり、それは詩人の悪行(詩人が愛する青年以外との交流)を通過することによって詩人の幸福がいっそう強まる。

詩人は自分が犯した過ち=悪行によって詩人は愛の真実を覚る。

だが、詩人の愛は本当に回復されたのであろうか?!

次への展開が楽しみなソネットである。