早咲きの菫の花にこう言って叱ってやった。
「香り豊かな盗人よ、おまえはその芳しい香りをどこから盗んだのか、
私の恋人の息からでないと言うのなら。その華麗な深紅の色は
私の恋人の血管に宿る色だが、その色で
けばけばしくおまえの頬を染めている」
百合の花には君の手から白さを盗んだのだと咎め、
マヨナラの蕾には君の髪から薫りを盗んだのだと責めた。
刺の上で震え立つ薔薇の花は、
一つは罪を恥じて赤く、もう一つは絶望に青ざめている。
三つ目の薔薇は、赤でもなく白でもない両方の色を盗み、
色だけでなく、君の息まで盗んだ。
だがその盗みのせいで、花の盛りに
青虫の復讐で食い荒らされてしまった。
さらに多くの花に眼を向けてはみたが、
眼にすることができたのは、君から盗んだ色と香りだけだった。
【私の鑑賞】
シェイクスピアのソネット154編の中で、形式の異なるソネットが二つほどある。
その一つがこの99番で、通常14行のところが15行の構成となっていて、最小の四行連が五行連になっている。
そのためこのソネットは完成品ではなく、他の詩人の作品を模倣した習作であろう、などという注釈もある。
内容としては98番のソネットの続きで、最後で「花と戯れる」と言っているが、ここではその花もすべて青年の美しい姿や香りを盗み取った模造品でしかなく、裏返せば、青年の美しさはどんな花にも勝る美しさ、香りであるということを謳っている。