92 愛に死ぬ幸せ

 

だから君の誠を信じて生きよう

騙され亭主よろしく。だから愛の表情は

たとえ心変わりしていても、いつも私への愛に見える

君の顔は私に向いていても、君の心は別なところ。

 

君の眼には憎しみなどありようがなく

私には君の心変わりを知る由もない。

大概の人の表情には、偽りの心の記録が

怒り、渋い顔、奇妙なしかめ面に現れる。

 

だが君を創造した天が命じたことは

君の顔には常に優しい愛が宿るべきだということだった。

君の思いや心の動きがどのようなものであろうとも

君の表情には優しさだけを表わすようにと言われた。

 

   君の美しさはイヴのリンゴと変わらない

   君の美徳が容貌と一致しないようであれば。

 

 

【私の鑑賞】

見かけと内実の違いはシェイクスピアのお気に入りのテーマ。

詩人は青年の心変わりの不安を抱きながらも、青年の誠を信じて生き続けることを決意するが、その心中は騙されることへの不安を宿したままである。

大概の人には心の動きが現れるものだが、青年の表情には変化がない。

だから詩人は青年の心の変化を知ることができない。

だからこそ、詩人は青年の外見と心とが一致することを望んでやまない。