92 愛に死ぬ幸せ

 

けれども私からこっそり逃げ出す最悪なことをするがいい。

君は私の生命の与奪を握っており、

君の愛が無くなれば、私の命も尽きる、

私は君の愛を頼りに生きているのだから。

 

だから私は最悪の事態を恐れる必要はない。

少しでもその気配があれば私の生命は尽きる。

私はましな状態にあると思っている、

君の気分に左右されている状態よりは。

 

君は移り気な心で私を苦しめることはできない。

君の心が変われば私の生命は終わるのだから。

ああ、私はなんと幸せなことか、

君の愛を得て幸せとなり、愛ゆえに死ねるとは!

 

  だがどんな美しいものにも傷はつきもの、

  君は不実かもしれないが、私には分からない。

 

 

【私の鑑賞】

青年は詩人の生命の与奪を握っている。

詩人は青年の愛を頼りに生きている。

青年の愛が絶えれば、詩人の命もそこで絶える。

だから詩人は最悪の事態を心配する必要はないという。

詩人は青年の愛を得て幸せを感じ、愛を失えばその愛のために死ねる悦びを感じる。

詩人は、青年が心変わりするかもしれないと思っているが、今はそれが分からない。

詩人は不確実な確実性の中で束の間の幸せを感じようとしている。