90 傷口に塩

 

私と縁を切るつもりなら、今がその時だ、

世間が私のすることを邪魔しようとしている今こそ、

運命の女神の悪意に味方して、私を屈服させる時だ、

だから後から不意に襲うようなことはしないでほしい。

 

ああ、私の心がこの悲しみから逃れた時、

克服した悲しみの背後から襲うような真似はせず、

嵐の後に雨を降らすようなことはやめてくれ。

破滅を望むならぐずぐずしないでほしい。

 

私を捨てるのなら、些細な悲しみでさんざ痛めつけた上

最後に捨ててしまうのはやめてくれ。

だが先鋒となって襲って来れば、

最初に運命の最悪の事態を味わうことができる。

 

  他の諸々の悲しみは、今は悲しく見えても、

  君を失うことに較べれば、たいしたことではない。

 

 

【私の鑑賞】

詩人は今逆境にある。

だから、青年が詩人を見限るのは今が一番であると言う。

詩人はその逆境の悲しみを克服しようとしている。

だが、せっかく悲しみを克服しても青年が詩人を捨てることになれば、それは最悪の事態となるので、最悪なことは先にやってきてほしいと願う。

傷口に塩を塗るような真似はしないでほしいと詩人は訴える。

しかしながら、詩人は今世間のどんな悪評にさらされているのであろうか?或いはどういう逆境にあるのであろう。

劇作家としてのシェイクスピアを思う時、その作品の評判(不評)であったり、スランプであったり、また疫病の蔓延による劇場閉鎖などの逆境のことなどが想像される。

そういった悲しみも青年を失うことに較べればたいしたことではないと詩人は言う。