私はいくたびも君に私の詩神(ミューズ)となるように求めた、
そのことで私の詩作に大いに助けとなったので、
他の詩人たちまでもが私の詩法を盗用し、
君の庇護のもとに自分たちの作品をばらまいた。
君の目は、もの言えぬ者に声高らかに歌うことや、
鈍重な無学な者に高々と飛ぶことを教え、
すでに飛ぶことを覚えた翼にはさらに羽根を加え、
美徳に二重の威厳を与えたのだ。
私が作った詩を最も誇りに思ってほしい、
その影響は君のものであって、君から生まれたものだから。
他の詩人の作品では君はその文体を直すだけであり、
技巧は君の優雅な美徳で飾られているだけだ。
だが君は私の唯一の技巧の源であり、
私の粗野な無知を博識に高めてくれる。
【私の鑑賞】
多重な解釈を招く作品だ。
競争相手の詩人たちがシェイクスピアの詩法を盗用していることを詰問しているようにも取れるが、一方、その詩の源泉はシェイクスピアの庇護者たる青年であり、競争相手の詩人たちはよりによって、青年の庇護のもとに彼を賛美する彼らの詩を回覧して広めている。
シェイクスピアは自分の詩法をライバルの詩人たちから盗用されただけでなく、詩の技巧の源泉である庇護者をも奪われた。
だが、シェイクスピアはミューズ(詩神)としての青年を賛美し続ける。
78番は、86番までシェイクスピアの競争相手の詩人について謳われる一連のソネットの嚆矢。