「時」の残酷な手にかかり、見るも無残な形となって
栄華を誇った建造物が廃れ、忘却に埋もれるのを見る時、
かつて高く聳えた塔が倒壊し
永遠の真鍮の碑が死の怒りに屈するのを見る時、
腹をすかした海原が
王国の岸辺を侵食するかたわら、
堅い大地が海原を制圧し、
失っては増え、増えては失うのを見る時、
このような有為転変に
栄華も破滅して朽ち果てるのを見る時、
廃墟が私に「思い」を巡らせる、
「時」が来て私の愛するものを奪っていくことを。
この「思い」は、死にも等しく、
あるものを失うことを恐れ、泣くほかはない。
【私の鑑賞】
詩人は「時」の破壊力に屈したかのようである。
現在の華やかな姿から過去の遺跡に目を移す時、「時」の手で無残にも侵食された姿をそこに見る。過去の栄華は土中に埋もれ、忘却の彼方に消えている。
この有為転変を目のあたりにして思うのは、やがては「時」が私の愛する人も奪っていくことであり、詩人にできるのはそれを恐れて泣くよりほかにない。
シェイクスピアのソネットを読む例会で、海洋学の研究者である四竃信行さんから、イギリスの海域の潮流差は7メートルにもおよび、海岸の浸食のイメージは太古からの浸食作用の結果ではなく、眼前の光景であることを教えていただいたが、そのように考えるとこの詩のリアルさが強く伝わってくるのだった。