ああ、美がいっそう美しく見えるのは、
誠実さが添える甘美な装飾のゆえ。
薔薇は美しい、だが、いっそう美しく思えるのは
そこにひそむ甘い香りのゆえ。
野バラはその色濃く、
色合いも薔薇と同じ、
刺もある。そして気ままに戯れもする、
蕾が花開き、夏の微風がそよ吹くとき。
だが野バラの美点はその外観だけ、
求められることもなく、顧みられることもなく、色褪せ、
ひとりで死んでいく。甘い香りの薔薇はそうではない。
その甘美な亡骸(なきがら)から、この上なく芳しい香水が作られる。
美しく愛すべき青年よ、君もそのように、
美しさが褪せても、この詩が君の誠実を蒸留する。
【私の鑑賞】
53番のソネットに続き、青年の心の問題=誠実がテーマとなっている。
野バラは菜園の薔薇と同じように、その色合いは美しいが、香りはない。
そのため花が散ってもそれを蒸留して香水が作られることもない。
だが菜園の薔薇は香り芳しく、花は蒸留されて香水として珍重される。
青年は、美しく愛すべき人だ。そしてその心も誠実である。
だから香り豊かな薔薇と同じように、青年の美しさが褪せた後も、その誠実さゆえに、詩人の詩によって永く留められる。