54 誠 実

 

ああ、美がいっそう美しく見えるのは、

誠実さが添える甘美な装飾のゆえ。

薔薇は美しい、だが、いっそう美しく思えるのは

そこにひそむ甘い香りのゆえ。

 

野バラはその色濃く、

色合いも薔薇と同じ、

刺もある。そして気ままに戯れもする、

蕾が花開き、夏の微風がそよ吹くとき。

 

だが野バラの美点はその外観だけ、

求められることもなく、顧みられることもなく、色褪せ、

ひとりで死んでいく。甘い香りの薔薇はそうではない。

その甘美な亡骸(なきがら)から、この上なく芳しい香水が作られる。

 

  美しく愛すべき青年よ、君もそのように、

  美しさが褪せても、この詩が君の誠実を蒸留する。

 

 

【私の鑑賞】

53番のソネットに続き、青年の心の問題=誠実がテーマとなっている。

野バラは菜園の薔薇と同じように、その色合いは美しいが、香りはない。

そのため花が散ってもそれを蒸留して香水が作られることもない。

だが菜園の薔薇は香り芳しく、花は蒸留されて香水として珍重される。

青年は、美しく愛すべき人だ。そしてその心も誠実である。

だから香り豊かな薔薇と同じように、青年の美しさが褪せた後も、その誠実さゆえに、詩人の詩によって永く留められる。