53 変わらぬ心

 

君の実体は何か、君は何でできているのか、

何百万という不思議な影を従えた君は?

人はみな自分の影を一つしか持たぬのに、

君は一人であらゆる影を見せることができる。

 

アドニスを描くとも、その絵姿は

君をお粗末に似せたに過ぎない。

ヘレナの頬をあらゆる技法を駆使して描くとも、

ギリシアの衣装をまとった君を描くに過ぎない。

 

一年の春や、実りの秋にたとえれば、

春は君の美の影を見せるに過ぎず、

秋は君の恵み深い心を表わすに過ぎない。

私たちはあらゆる祝福された形の中に君を見るのだ。

 

  君は外界のすべての美を分かち合い、

  しかも変わらぬ心にかけては、誰も君に及ばない。

 

 

【私の鑑賞】

詩人は青年について自問する。

君という存在の本質は一体何なのか?

多くの者がつき従う君は何からできているのだ?

その美しさは、絶世の美男アドニスや、絶世の美女ヘレナも君には及ばない。

君は外面上美しいだけでなく、心も誠実で、その貞潔は誰にも似ていないだけでなく、誰も及ばない。

だがこのあまりの称賛は、詩人がこの青年から自分の恋人を奪われたことを思えば、「変わらぬ心」はアイロニー-以外のなにものでもない。

詩人はその苦さを噛みしめているようだ。