君の実体は何か、君は何でできているのか、
何百万という不思議な影を従えた君は?
人はみな自分の影を一つしか持たぬのに、
君は一人であらゆる影を見せることができる。
アドニスを描くとも、その絵姿は
君をお粗末に似せたに過ぎない。
ヘレナの頬をあらゆる技法を駆使して描くとも、
ギリシアの衣装をまとった君を描くに過ぎない。
一年の春や、実りの秋にたとえれば、
春は君の美の影を見せるに過ぎず、
秋は君の恵み深い心を表わすに過ぎない。
私たちはあらゆる祝福された形の中に君を見るのだ。
君は外界のすべての美を分かち合い、
しかも変わらぬ心にかけては、誰も君に及ばない。
【私の鑑賞】
詩人は青年について自問する。
君という存在の本質は一体何なのか?
多くの者がつき従う君は何からできているのだ?
その美しさは、絶世の美男アドニスや、絶世の美女ヘレナも君には及ばない。
君は外面上美しいだけでなく、心も誠実で、その貞潔は誰にも似ていないだけでなく、誰も及ばない。
だがこのあまりの称賛は、詩人がこの青年から自分の恋人を奪われたことを思えば、「変わらぬ心」はアイロニー-以外のなにものでもない。
詩人はその苦さを噛みしめているようだ。