シェイクスピアのソネット
 

109 君がすべて

 

私が不実であったと言わないでくれ

君と離れていて愛の炎が冷めたように見えたとしても。

その気になれば私が自分自身から苦もなく離れられるように

君の胸に宿る私の魂から別れることができるのだが。

 

君の胸が私の愛の住みか。さまよい出ても

旅する人のように戻ってくる

時間通りに、時を経ようと心変わりもせず

私の罪の汚れを洗い流す涙を引き連れて。

 

決して思わないでくれ、私の性質の中で

すべての気質につきものの弱点すべてがのさばっていても

私の性質を理不尽に汚してまで

価値のないもののために君の美徳すべてを捨てるなどとは。

 

   私の薔薇よ、君がいなければ、この広い宇宙も

   無に等しい。この世では君が私のすべてだから。

 

 

【私の鑑賞】

多様に解釈される詩である。

別離は身体的別離とも、心理的別離とも考えられる。

不在は、詩人が青年についての詩を書かなかったことを表象しているともとれる。

そのすべてをひっくるめて、そのことをもって不実であると言わないでくれと詩人は請う。

たとえ一時的に離れていても、旅人が元の処に帰って来るように、いかに時を経ようとも心変わりもせずに詩人は青年の処に戻ってくる。

詩人の性質が弱点だらけであっても、青年の美徳を無価値なものと引き換えに捨てることなどしない。

青年がいなければ価値がないので、この広い世界をくれると言っても取り換えることはしないと言う。青年こそ詩人にとってのすべてであるから。