106 金縛りになった舌

 

虚しく過ぎ去った時代の年代記に

最も美しかった人々の記述をみるとき

美しい古歌を生み出す美を

亡き貴婦人たちや美貌の騎士たちの賛美にみる。

 

そのとき最高に美しい人たちについて紋章学的記述で

手や、足や、唇や、瞳や、額について

古人の筆が表現したいと思い描いたのは

まさに今君が所有しているそのような美しさだった。

 

そんなわけで彼らの称賛はみなこの我々の時代の

予言に過ぎず、すべては君を予兆するものであった

そして彼らはただ未来を想像する眼で見るだけで

君の価値を謳うだけの十分な知識を持っていなかった。

 

  いま、現代の日々を見ている我々に関して言えば

  眼は驚嘆するばかりで、舌は称賛する力を欠いている。

 

 

【私の鑑賞】

昔の年代記には美しかった貴婦人や、魅力あふれる騎士たちについての賛美が記されているが、それもこれも、今この時代に存在する青年の到来を予言するものでしかなかったと詩人は謳う。

昔の人は、青年の予兆を見ていただけなので青年の価値を謳うだけの技量もなかった。

一方現在のわれわれと言えば、青年の美しさに驚嘆しても、その美しさを賛美する表現力を欠いているので沈黙するしかなく、詩人が詩を書けないことの理由にしている。