32 詩の技術は進歩しても

 

私が人生を満喫した日より君が長生きすれば、

あの野卑な死が私の骨を土で覆うとき、

きっとまた運よく読み返すことになるだろう

君の亡くなった恋人の未熟なこれらの詩を。

 

当代の進歩した詩と私の詩を比較すれば、

誰の詩よりも劣っているかもしれないが、

詩の技巧ではなく、私の愛を汲みとってほしい、

私よりすぐれた詩人の技量に凌駕されていても。

 

ああ、この愛する思いをただ汲んでほしい。 

「私の友人である詩神が、進歩する時代とともに成長しておれば、

彼の愛がこの詩よりもっと高貴な詩を産み出して、

優れた装備をした詩と肩を並べていただろう。

 

  だが、彼は亡くなり、詩人たちも進歩しているので、

  彼らの詩は文体のために、彼の詩は恋のために読もう。」

 

 

【私の鑑賞】

この詩はシェイクスピアが、自分の詩がやがては古いものとなるだろうという、将来を見通す目があったと思われる詩である。

連作ソネットの形式の流行は、1591年フィリップ・シドニーの『アストロフェルとステラ』に始まり、1597年までにはほぼ終息した。

シェイクスピアの『ソネット集』がいつごろ書かれたかという問題があるが、一般的には1592−3年の疫病の流行により劇場閉鎖をされた時期から、1598年までには主要な部分はほぼ完成していたと推定されている。

1609年にシェイクスピアの『ソネット集』が出された時には、シェイクスピアのソネットは古い形式で人々の間ではもう人気はなかった。

シェイクスピアは、この詩をソネット連作の人気の最盛期の時期から下降期に至る時期に書いたと思われるが、その後のソネットの衰退をみるとき、シェイクスピアの先見性に驚く。