26 ベッドフォード伯爵夫人へ、新年の到来に当たって  ダンの部屋トップへ戻る

 

この二つの年にまたがる黄昏時は、過去でもなく、未来でもない、

私の象徴である、というより私がその象徴です。

彗星のように、実体と外観は渾然としており、

私が何者で、どこにいるのかを問題にしても、

私が何かであると言えば、的外れとなります。

 

この二年と私とを総括して見ると、私が

行く年の負債者であるのか、来る年の債権者であるのか分かりません。

行く年は、私が感謝を言うのを忘れたとは言えないし、

来る年には、希望を頼みとしていません。しかし、この大胆な主張は、

近頃あなたにお会いしているので、真実とは申せません。

 

お礼に、未来の人たちにあなたがどういう方であったかを見せ、

その人たちにあなたのような道に進むように教えたいと思います。

詩は美徳を永遠に保存します。韻律の墓石や王座が、

脆くてはかない名声を保存するのは、

香料が腐敗を招く空気から肉体を守るようなものです。

 

とはいえ、私の詩の命は長くありません。あなたの名声という真髄は、

私の詩のなかで創造的な働きをしますが、すぐに新しい精気を

破壊してしまいます。というのは、強いエキスというものは、

暖め、育むと同時に、私たちを消耗させるものです。

強烈なエキスに浸されると、肉体はもちません。

 

そういう訳で、あなたを称賛することからできている私の詩は、

理性と真実味という確固とした土台を欠いていることでしょう。

今では、奇跡から生まれる信仰心も乏しくなり、

やがては消えてなくなるでしょう。それで居場所もなくなって、

あなたも、私の詩も、誉め過ぎては却って不名誉となるでしょう。

 

すべての人が(真実には誰もが同意するので)あなたの真実を

認めるでしょうが、私の言うことは疑うでしょう。どうやって、

蟻塚の砂粒ほどもない、ちっぽけな私が、

このように気高いものを、名指し、知り、表現でき、

一寸にも足らぬものが、無限の大きさを測ることができるのかと。

 

私は、自分の思いや、あなたのことを伝えることができないので、

諦めて、私の称賛で真実が危うくならないようにするために、

神様に祈ることにします。神様は私の真心をご存知です。

神様は、真心が間違った言い方をしても、

心から称賛する人は祈っているので、それを良しとして下さいます。

 

神様が一番よく教えて下さいます。あなたが、どのように

神様の与えた美貌、知識、魅力、血統を使うべきかを。

神様は、安心と不安を混ぜ合わせて、

不安を払拭し、あなたから隠し、良いものを見せて、

あなたの食欲と満足を増やして下さいます。

 

神様は教えて下さいます。善悪の物差しは

教会と宮廷では同じではなく、

宮廷では善悪に無関心であることが幅を利かせ、

同情することは良くなく、こちら側では罪になることも、

あちら側では馬鹿げた戯れでしかないのです。

 

しかし、神様は、海を制限するように、あなたに、

快楽や歓喜に侵されない時を用意して下さいます。

そして、他の誰もが失ったこともない最高の美徳があなたのものであっても、

あなたがもっていなかったものを、

他の人の欠点ではなく、弱点を利用して、あなたに下さいます。

 

神様はあなたに真実を語らせ、それが信用されるようにし、

人が疑うことのないように、あなたに疑うことを教えます。

神様はあなたに鍵と錠前を与え、偵察はしても、

偵察されることからは逃れ、良い結果を得るように、

容認してはいけないこと、知ってはならないことを示して下さいます。 

 

神様は、あなたの良心のためには、純潔を、

あなたの名声のためには、用心深さを授けます。

侮辱には、復讐するよりも避ける方が

よいけれども、両方を示されて、幸運に恵まれた時には

喜びを抑え、不運な時には悲しみを鎮めてくれます。

 

罪の痛手や不運を嘆く涙から、神様はあなたの魂を守り、

一滴の涙であなたを再洗礼して下さいます。

神様には(そうするつもりはありませんが)あなたの名前を命の名簿から

消すことができません。私たちがはやる喜びで

この私的な福音を聞くときこそ、私たちの新しい年の始まりです。

 

 

【訳注】

ルーシー・ベッドフォード伯爵夫人(1627年没)がダンのパトロンとなったのは1608年頃のことである。彼女はダンの娘ルーシーの名付け親にもなった。ジョンソン、チャップマン、ダニエル、ドレイトンなど当時の詩人たちの保護者として、彼女が住んでいたトゥイットナムは、さながら文化の中心地であった。彼女自身も詩を書いた。ダンが彼女に宛てて書いた詩は、1609年から1614年頃までである。

 

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ジョン・ダン全詩集訳 書簡詩