25 M. H. 夫人へ  ダンの部屋トップへ戻る

 

狂った紙よ、ここに留まれ。そして、僕の脳が作り出した

この息子たち全員とともにここで焼かれるのを恨むな。

せめて僕と一緒に隠れておれ、おまえが生まれた姿の

紙くずとなって戻ってくるまでは。

 

おまえは十分な無価値を備えているので

他の者と同様に偉大な場所に出ることができる。

それは大したことだ。大胆になり、引いたり、押したり、

それだけでなく、悪人にもならねばならない。

 

だが、おまえは学ぶことができず、僕も教えることができない。

それでもおまえは行くという。ならば行け。おまえが行くところは

王妃となるには欠点だけを欠いている女性であり、

王様たちが許そうとしない真実をあえて好む女性だ。

 

だが、当惑させるその人の目の前に出れば、

その瞳が、愛と尊敬を等しく要求するので、

おまえは長くそれに抗うこともなく、死ぬだろう。

今でも鈍い感覚を、その時には失うだろう。

 

しかし、彼女の温かい救いの手が、それは

一つの奇跡であり、さらなる奇跡を産むものであるが、

生命のない紙きれであるおまえに触れると、おまえは

彼女の子どもとなり、以前より大きな栄光を得る。

 

そうなれば、母親が幼子の言い間違いや、

片言言葉を喜んで聞くように、また

君主が悪口や直言を恐れないように、

彼女は聞くだけのゆとりがあるだろう。

 

その時には、冷血で口のきけない哀れなおまえは、再び死ぬ。

それは賢明なことだ。おまえには語るべきことがないのだから。

悪口も言えず、彼女について語ることもできないとしたら、

彼女のほかに何かよいものがあるとでもいうのか。

 

しかし、彼女ではなく、その僕(しもべ)なら誉めることができる、

彼女に従う、知性、美徳、貞節を。

それらは彼女の衣裳に過ぎないので、

彼女の姿形、美しさ、優雅さを誉めても間違うことはない。

 

おまえの運命を知るものはいない。用が済めば、

彼女の抽斗(ひきだし)がおまえの住処(すみか)となるかもしれない。

そこはすべての野心に燃えた高貴な詩人たちが憧れるところ、

彼女に劣らぬ善の宝庫である。

おまえがそこに行ったとき、我々が知っている誰かが

先に救われていて、その天国にいるのを見つけたら、

彼女がその紙切れをめくるとき、注意して見てくれ、

一人になった彼女が、どんな好意を示すかを。

 

その紙切れを取り出すために、他のものを無視するかどうか、

それを二度読み返し、名前に口づけするかどうか、

それが要求していることを、彼女が実行に移すかどうか、

女中が来たところで、印を付けて隠すかどうか、注意して見てくれ。

 

些細なことに異議を唱え、払いのけるかどうか、

彼女が彼を拒絶した誓い注:1が永遠には

守られず、彼女は自分が自分のものでないと嘆いて、

自由意思を否定する教義を非難するかどうか、注意して見てくれ。

 

おまえにこのことを命じるのはスパイとしてではない。

また僕自身が彼女の恋の相談相手になるためでもない。

僕は彼女が選ぶものをこよなく愛しているので、

彼女から愛される彼を喜んで好きになりたいのだ。

 

 

【訳注】

M. H. 夫人とは、マグダレン・ハーバート夫人のことで、エドワード・ハーバートとジョージ・ハーバート兄弟の母親。ダンは1600年頃に初めて彼女に会ったが、その交際が親密になるのは1607年頃。1596年に未亡人となり、1608年に彼女より年下のジョン・ダンヴァーズ卿と再婚した。この詩は1607年ないしは1608年に書かれた。

 

注:1 「彼を拒絶した誓い」とは、再婚しないという誓いのこと。

 

 

 

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ジョン・ダン全詩集訳 書簡詩