あの尊い書類(注:1)の後で、その魂は
有徳にして偉大な国王の愛すべき筆跡と畏れ多い署名であり、
その書面によって国王はあなたに多くの力を与え、
(許す限りにおいて)あなたを王と同等の権限あるものとした。
王の松明の一本の灯りとして、
王が書かれた原本の写しとして、また、
あの暖かく、煌めく太陽の美しい一条の光として、
王の威光を別の世界に注がねばなりません。
あの学識ある書類の後で、あなたは
有益で、喜びの種の文を書き加えられたので、
その豊かな宝庫から、あなたが書きたいことやしたいことに
ふさわしい内容を自由に取り出して使うことができる。
あの愛すべき書類の後で、友人たちが
海の彼方へと踏み出すあなたに、喜びと悲しみの気持で別れの手紙を送り、
それが今、善良な人が死んで弔いの鐘が鳴ると、多くの人の祈りの言葉が
一団となって天に昇って行くように、あなたに押し寄せる。
真心からのこの手紙を認め、
謁見を賜るのを願うのと同じ気持で受け取って下さい。
あなたがヴェニスで言うべきことがここに書かれており、
あなたがなすべき仕事を、自然に果たしています。
多くの愛を誓い、その愛は変わることがありません、
あなたの出世が名誉だけを受けることになるまでは。
いえ、あなたが出世した時に敬う以上に、
出世する前のあなたを尊敬しています。
だが、(どちらも苦痛だが)出世しない方が
重職を担うより負担が軽い。その理由(わけ)は、
出世しなければ、自分だけのことを考えればよいが、
出世をすれば、他人の悪徳に気をつけなくてはならないから。
そういうことで、あなたの精神が今、
活性における最後の炉のなか(注:2)で鍛えられるのはいいことだ。
それによってあなたの精神は(学校、宮廷、戦争を経験した上で)
何事にも最高のものに触れ、試すのにふさわしいものとなる。
僕について言うなら(僕というものがあるとして)、
幸運の女神は(そのようなものがあるとして)、
彼女の虐待に僕がうまく耐えられるか見ようとして、
不幸以外与えるのにふさわしいものはないと思っている。
しかし、幸運の女神が我々のもとを去っても、あなたの成功を
祈る僕の祈りを聞こうと、神様が僕のそばにいます。
そして僕の願いを送り届けるための神の梯子(注:3)は、
どこにあっても手の届くところにあります。
【訳注】
ウォットンは、1604年7月8日、国王ジェイムズ1世からナイトに叙せられ、7月19日にヴェニスに大使として旅立った。この詩はそのときにダンからウォットンに送られた詩であることがアイザック・ウォルトンの『ヘンリー・ウォットン卿の伝記』(1670年)に記されている。
注:1 「あの尊い書類」とは、ウォットンの大使としての国王からの委任状
注:2 「活性における、最後の炉のなか」とは、錬金術において物質が熱によって徐々に精錬され、純化されていき、最後の段階の「炉のなか」のことで、そこでエリクシル(精髄)あるいは試金石が生じる。
注:3 「神の梯子」は『創世記』28章12‐15節にあるヤコブの夢に出てくる。
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