Devotions ―『病床での祈り』

 

 『病床での祈り』は、1623年の冬、ダンが重病に陥った時に書かれ、翌年早々に出版され、同年に合計3回発行され、1627年と1628年にも出版された。
『祈り』には、発病から、危篤状態、回復に至るまでの病状の各段階が、瞑想の主題、忠言、祈りとして記されている。
ヘミングウェイの小説『誰がために鐘は鳴る』の題名が、この『祈り』の文の一節から取られていることも知られている。
ここに『祈り』を、章ごとに警句的にその大枠を記す。
使用したテキストは、初版が1929年1月の'John Donne, Dean of St. Paul's, Complete Poetry and Selected Prose', edited by John Haywardの1932年3月発行の第3刷。

第1章 発病―最初の変化、病気への不平不満。
 人間は、定めがなく変化する惨めな存在であり、元気かと思えば病気になる。

第2章感覚と諸器官の機能の強度と働きの変化と衰え
 天は、一定の同一の方向に動いているがゆえに不変である。
 地球は、絶えず変化して動き、すべての部分が変化しているがゆえに一定ではない。
 人間は、地球の最も崇高な部分である。
 天は不変、地は変化し、人は消え去る、土の像ではなく、雲の像のように。
 地は身体の中心、天は魂の中心。
 魂は上昇し、身体は下降する。
 眠りは、死の模造品。

第3章患者が病の床に就く―病床は墓である
 人間は直立して歩行し天を仰ぐが、他の生き物は地を見つめて這う。

第4章医者を迎えにやる
 人間は、無に等しい存在。

第5章医者来る
 病気は大いなる悲惨。
 孤独は拷問。

第6章医者は怖れる

第7章医者が他の人が加わることを望む
 最高の強心剤は劇薬。
 エジプト人が家より墓を立派に造ったのは、そこに住むほうがずっと長いからである。

第8章国王が自分の主治医を寄越す
 人間は、世界。
 人間は陸であり、悲惨は海。
 人間の実体は土であり、形象は悲惨である。

第9章診察によって処方する

第10章 病気は少しずつ盗み、人はそのように病気と出会うべく努める。
 天は地を、地は都市を、都市は人間を抱合する。
 これらすべての共通の中心は、衰退、崩壊である。

第11章 人は病気の毒性と不治から心臓を守るため強心剤を用いる
 心臓は王さま、その他は臣下。

第12章 頭から毒気を抜くのに鳩を用いる
 心臓は王さま、脳は王の相談役。

第13章 病気は発疹によって感染と悪性を示す
 人の要素は、幸と不幸からなり、両者の割合は等しく見える。
 しかし、人の不幸は絶対的であるが、幸福は議論の余地があり、不確定である。

第14章 医師は危篤の日々の偶発的症候を観察する
 ≪時間に関する考察≫
 今、現在というのは瞬時にして、今、現在でなくなる。
 永遠とは時の流れではなく、長い期間の挿入語句でしかない。
 若さは、危機の日である。

第15章 昼も夜も眠れない
 ≪眠りについての考察≫
 眠りには2種類ある。
 一つは、休息としての眠り―体を休めることでリフレッシュする。
 今一つは、死の表象としての眠り。

第16章 教会が鳴らす他人への弔いの鐘が自分の埋葬の鐘に聞こえる

第17章 今、他人のために静かに鳴る鐘が私に告げる、「お前は死なねばならない」と
' For whom this Bell tolls'―誰がために鐘は鳴る。
 すべて人は作家であり、一巻の書物である。
 苦悩は宝、それを十分にもつ人は稀である。

第18章 鐘は鳴り、私が死んだことを告げる
 魂は去る、いずこへ?
 魂が来るのを見、去るのを見た者がいるであろうか?
 魂は、永遠の休息、喜び、栄光の元へと行く。

第19章 医師は、長い嵐の航海の後、陸を見る。
 医師は調合薬の効果によって病気を無事に追い払った徴候を見る。

第20章 消化された事態の徴候から病気を一掃することを進める
 人の不幸は単独ではやって来ず、他の不幸を伴ってくる。
Cf. 'When sorrows come, they come not single spies, but in battalions', Hamlet, 4.5.78-9

第21章 神は医師の診療を成功させ、ラザロを墓から呼び出したように、私を病の床から起こした。

第22章 医師は、病気の燃料である石炭や燃えさしなどの原因を考慮し、それらを一掃する方法を探し求める

第23章 再発の危険を警告する

2021.06.09 記

 

 

 
 
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