王女エリザベスとプファルツ選帝侯の婚礼歌 ダンの部屋トップへ戻る

 

 

王女エリザベスとプファルツ選帝侯が聖ヴァレンタインの日に

結婚するに当たって

 

ようこそ、聖ヴァレンタイン注:1注:2さま、今日はあなたの日、

この空はみな、あなたの教区、

美しい声でさえずる合唱隊員も、

小鳥たちもみな、あなたの教会区民、

あなたは毎年、結婚式を執り行います。

澄んだ声でさえずるヒバリ、重々しい鳴き声のキジバト、

愛のためには命を惜しまぬスズメ注:3

赤いチョッキを着た、家の近くの小鳥、

あなたはクロウタドリ注:4をも

オウゴンヒワやカワセミに劣らず繁栄させます。

夫となる雄鶏は外を見ては、すぐに首尾よく、

羽根布団を持ってくる、妻となる雌鶏に出会います。

今日という日は、いつもの日より楽しく輝き、

今日という日は、老いたヴァレンタインさまも、心が燃えるのです。

 

これまで、あなたは募る愛で夢中にさせてきました、

二羽のヒバリ、二羽のスズメ、二羽のキジバトなどを。

でもそんなことはみな取るに足りないことでした、

あなたはこの日、二羽の不死鳥を番(つが)わせ、

太陽でさえ見なかったものを

蝋燭の明かりに見させるのです。ノアの方舟も

(方舟は鳥や獣たちの囲いの檻であり、公園でもありました)

載せていなかったものが一つの寝台の上に乗っています、それは

二羽の不死鳥です。あなたのおかげで、胸と胸を合わせ、

お互いを愛の巣にしているのです。

運動が火を燃え上がらせ、そこから

若い不死鳥が生まれ、老いた不死鳥も生き続けるのです。

不死鳥の愛と性欲は衰えることなく、

一年を通してあなたの日となります。ああ、聖ヴァレンタインさま。

 

美しい不死鳥の花嫁よ、起き上がって太陽を失望させるのです、

あなたの愛情で

ご自分を温めるのには十分、それにあなたの瞳で

あなたより小さな小鳥たちはみな陽気になります。

さあ、起きるのです、美しい花嫁、そして

それぞれの箱からあなたの星である

ルビー、真珠、ダイヤモンドを取り出して、

あなたの身につけ、ご自身が星座となるのです。

その輝きによって、

偉大な王妃>注:4は天から落ちても、死ぬことはないと示すのです。

大いなる奇跡の結末を予言する新星となって

あなたこそ奇跡の結果であることを示してください。

あなたは、今日、新しい栄誉に輝くことで、

このあなたのヴァレンタインから、新たな記録が始まるのです。

 

さあ、出ておいでなさい。燦然と輝く一つの炎が

別の炎と出会って、一体となるのです、

さあ、あなたのフリードリッヒを出迎えなさい、そうして

分かつことのできない一体のものとなるのです。

離ればなれになるのは

無限なものには無縁なことです。

ひとつのものが、二つになることはありえないのです。

あなたがたを二重に分かつことができないのは、偉大にして一体であるからです。

さあ、司祭さまのところに行って、

あなたがたを一つにしてもらうのです。彼の流儀であろうと、

他の流儀であろうと構いません。すべてがすめば、

あなたがたは一体となり、手と手、心と心は固く結ばれ、

あなたがたふたりに残されたことはひとつ、ともに抱き合うことです。

司祭さまがふたりを結び合わせ、聖ヴァレンタインさまが一体にしてくれます。

 

だが、どうしたというのだ、太陽は、

今日は、いつもよりぐずぐずしているが。

新しい光をこのふたりからもらうため長居しているのか?

ここにはたっぷりと光があるので、それで引っ込むのが嫌なのか?

それに、あなたがたふたりは歩くのに、どうして

この行列に合わせてゆっくりと進むのです?

あなたがたの関心は、人に見つめられ、

称賛の的となって、話題になることだけですか?

宴の食事は、大食漢のために引き延ばされては、

人々にほめそやされ、長々と続き、

仮面劇は夜遅くに始まって、

妖精たちが戻っていく一番鶏の鳴く朝まで終わらない。

ああ、昔の人は、夜を昼と同じように、

あなたに割り当てたのではなかったのですか、ヴァレンタインさま。

 

彼らはそうしたのです、それで夜が来ました。それなのにまだ

儀式があなたを足止めしています。

このご婦人たちはどういうつもりか(まるで

時計を分解するように)

花嫁の世話を入念にしている。

花嫁は、お休みを言う前に、

身につけている衣裳からそっと抜け出し、寝床に入るのです、

魂が肉体からこっそり抜け出す時のように、人に見られないようにして。

彼女はやっと横になれたのに、いったいどうしたことか?

まだ待たされている。彼はどこにいるのやら?

やっと彼が来て、天界を隈なく巡ります。 

シーツから始めて、彼女の両腕、そしてすべてのものへと。

ですから、この昼ではなく、夜をあなたのものにするのです。

この昼は、今夜のための前夜に過ぎませんでした。ああ、ヴァレンタインさま。

 

ここに、彼女は太陽として、彼は月として横になり、

彼女は、彼という球体を最高の光で照らします、

いえ、ふたりはその両方であり、すべてでもあります。

ふたりはお互いに何も負うものはないのです、

それでもふたりは負い目を感じて、

正確に、しかもたっぷり、金貨で支払いますが、

お互い、支払いなしですますとか、中止することもなく、またその必要もなく、

どちらも、惜しむことも、惜しまれることもなく、

さっさと自分たちの負債を支払い、しかも

領収書も受け取らず、また支払うのです。

ふたりは、支払い、与え、貸し付けて、気前よく

お互いが楽しむ好機を逃さぬようにしましょう。

このふたりの中には、あなたのキジバト注:6や、スズメなどよりも、

もっと多くの真心や精力が輝いています、ヴァレンタインさま。

 

そうして、これら二羽の不死鳥のこの行為によって

自然は再び元の姿を取り戻すのです。

これらの二羽はもはや二羽の不死鳥ではなく、

昔のように、永遠の一羽の不死鳥となったのです。

さあ、もうお休みなさい。わたしたちは

サテュロス注:7が日の出を待つように、

あなたが目を覚まし、太陽が顔を出すのをじっと待っています。

わたしたちが望むのは、あなたのお顔を見ることだけです。

あなたの近くにいる人たちは、ささやき声で話し、

賭けをするでしょう、どちらの側に太陽が昇るかを。

それから、彼女の手か、彼の手か、どちらが先に

カーテンを開けるかを見て、勝負を決めます。

その勝負が決まるのは明日の朝、九時を過ぎてからです。

その時刻まで、わたしたちはあなたの日を延長します、ヴァレンタインさま。

 

【訳注】

注:1 聖ヴァレンタインは3世紀ごろのローマのキリスト教殉教者。祝日は2月14日。

注:2 聖ヴァレンタインは鳥の守護者で、聖ヴァレンタインの日には小鳥たちが番い始めると信じられていた。

注:3 スズメは好色なため寿命が短いと信じられていた。

注:4 クロウタドリ、黒色は醜い色として見られていた。

注:5 王妃は彗星に譬えられていて、彗星が落ちるのは、王の死の予兆であると信じられていた。ここでは「落ちる」に性的な意味が込められている。

注:6 キジバトは真実の愛の象徴で、スズメは精力の象徴。

注:7 サテュロスは、ギリシア神話の酒神バッカスに従う半人半獣の怪物で、酒と女が大好きな山野の精。

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ジョン・ダン全詩集訳 婚礼祝歌