リンカンズ法学院で作られた婚礼祝歌  ジョン・ダンの部屋トップへ戻る

 

東の空に太陽の陽が広がった、

さあ、美しい花嫁よ、そのひとり寝の寝床から出るのだ、

 これからはもう、ひとりでそこに戻ることはない、

寝床は悲しみを育み、おまえの身体の跡で、

まるで墓場のように、柔らかな綿毛がくぼんだ。

 おまえは、もうひとりのおまえとそこですぐに出会う。

  香油の香りがするその温かい腿を思い切り伸ばすのだ、

おまえが次にそれをシーツにくるむときには

別の腿と出会うことになる。

  それはこれまで近くになかったが、これからは近しいものとなる。

そこから喜んで出てくるのだ、来た時よりも喜ばしく。

今日こそは、完璧注:1なものとなって、女という名を身につけるのだ。

 

ロンドンの娘たちよ、おまえたちは

我々の金の鉱脈、財宝だ、

 おまえたちは我々の天使注:2、しかも

結婚式の日には何千という天使を常に引き連れてくる。

おまえたちも参列し、工夫を凝らし、めでたく飾り立ててくれ、

 やがてはおまえたちも挙げることになるこの結婚式を。

  彼女の着付けを凝ったものにし、おまえたちの手で

花や宝石をそれぞれ相応しい場所に飾り付け、

彼女を愛にふさわしい燃料としてくれ、

  花の女神フローラのように美しく、インドのように豪華に。

彼女が美しく、豪華で、欠けるものが何もないようにしてくれ。

今日こそは、完璧なものとなって、女という名を身につけるのだ。

 

さて、君たち陽気な貴公子諸君、

大海のような富を持つ町の大富豪の息子たちよ、

 君たちは、派手に塗りたくった宮廷人、他人の智恵を詰めた酒樽、

家畜のほかには何も愛したことがない田舎者、

その仲間の一人である彼と

 共に学び、共に遊んだ一心同体の君たち、

  さあ、照り輝き、この花婿を教会へと案内するのだ。

見たまえ、いっぱいの花がまき散らされ、飾り立てられた向こうの小道に、

乙女がしずしずと歩いてくるのを。

  僕の目に狂いがなければ、他のものではない。

泣くのも、恥じらうのもおよし、悲しみも、羞恥心もここではいらない。

今日こそは、完璧なものとなって、女という名を身につけるのだ。

 

美しい聖堂よ、おまえの二枚の扉を開き、

このふたりをおまえの聖なる胸の内に納め、

 ふたりを神秘なまでに結び合わせ、一体とさせるのだ。

そうすれば、飢えで痩せこけたおまえの子宮は

ふたりの亡骸を長い間待つことができる、

 彼らの両親がおまえの腹を太らせたずっと後で。

  昔の嫉妬や、冷たい不妊症はすべて、

新しい愛に座を譲り、二度と近づけないように、

そういうものは二人を引き裂くもと、

 ふたりがいつもお互いを所有し合うようにするのだ。

最高の花嫁には、最高の賛辞、最高の名声こそふさわしい。

今日こそは、完璧なものとなって、女という名を身につけるのだ。

 

ああ、冬の日々はたくさんの喜びを招く、

それ自体が喜びというのではなく、夜が早く来るから。

 このさまざまな御馳走より別の素敵なものがおまえを待っている、

それは、陽気な踊りとは別の遊び、

それは、流し目とは別の恋の手管、

 しかし、我々の半球ではまだ太陽が汗をかいている、

  冬にはとうに飛んでいるのが、まだじっと立っている。

だが、影が移動し、太陽は真昼に達した。

彼の馬は手綱を引き締められるのを望みながらも、

 はや、西の方へと勢いよく駆けて行く。

太陽が世界の半分を駆け終わるとき、おまえは

今宵こそ、完璧なものとなって、女という名を身につけるのだ。

 

多情な宵の星が昇ったからには、

恋をしている我々の星が、念願の寝床で

 その身を包むのをためらうことはない。弦を緩めよ

楽士たち、踊り子たちもしばし

その楽しい仕事を休むがいい、一生懸命やれば

 上達もするが、それだけ飽きも大きいというもの。

  君たち、それに君たちだけでなく、すべて働く動物は

適当に休まなくてはならない。夜は、すべての労働を休むとき。

しかし、ふたりの寝床では

  これから別の仕事が始まる、それはもっと楽しい饗宴。

彼女は乙女として行くが、戻るときには元の彼女ではない注:3

今宵こそ、完璧なものとなって、女という名を身につけるのだ。

 

さあ、おまえの乙女の腰帯を解いて、

新床(それは愛の祭壇)に横たわり

 快楽の生贄となるのだ。おまえの肉体ではなく、

この日を飾るために身に付けた鎖や衣裳を

脱ぎ捨てるのだ。おまえには

 美徳や真実のように、裸が最高の姿。

  この寝床は、乙女にとっては墓場でしかないが、

もっとましな状態のものにとっては揺籠となる。

これまでは、今の状態のおまえは

  可能性でしかなかったが、これからは、

 「できる」ではなく、「である」と、おまえはいうだろう。

今宵こそ、完璧なものとなって、女という名を身につけるのだ。

 

信仰の厚い人が、よりよきもののためには

進んで命を投げ出すように、

 彼女も、母という豊かな位を好んで、

待ち望んだ花婿が近づいてくるまで

指名された羊のように、横になって待っている。しずしずと

 やってきた司祭が膝をつき腹を引き裂くのを待つ羊のように。

  いまは眠りのとき、だがより大きな喜びのため、寝ないでいるがよい。

天空の光明注:4よ、明日は、熱く燃えて、早々と起きよ。

この太陽は心から休息を愛しているので

  我々は長く、長く、彼女を見ることがないだろう。

奇跡が行われ、彼女は傷つくことなく、

今宵こそ、完璧なものとなって、女という名を身につけるのだ。

 

 

【訳注】

注:1 女は男と一緒になることによって完成され、それまでは女性としては未完成と見なされていた。A.J. Smithはシェイクスピアの『十二夜』を参考にあげている。

alas, that they are so;

To die, even when they to perfection grow!(2.4.41-2)

 「悲しいことにそれが女です。花の盛りと見えるときが、散りゆくときとおんなじです」(小田島雄志訳)

注:2 天使は「エンジェル金貨」をも意味する。

注:3  『ハムレット』の狂ったオフィーリアが歌う唄を思い出させる。

’Let in the maid that out a maid/ Never departed more’(4.5.54-5)

「入った娘が出てくるときはもはや娘じゃないからだ」(小田島雄志訳)

注:4 「天空の光明」は太陽のことで、「この太陽」とは花嫁のこと。

 

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ジョン・ダン全詩集訳 婚礼祝歌