エレジー 15  異議の申し立て ジョン・ダンの部屋トップへ戻る

 

正直な女はいない、という疑いを晴らすために

 君を矢面に立てて証明するのが僕の定めなのか?

ひとりぐらいは汚れのない空気を吸っていると思ったが、

 彼女も美しいがゆえに嘘つきなのか?

真実を学ぼうとしないのは、君の美しさゆえか、

 若さのためか、それとも君の完璧さがそうさせるのか?

神は耳が聞こえず、眼が見えないとでも思っているのか?

 それとも、神が君の嘘を笑って見過ごしてくれるとでも思っているのか?

女と交わす誓いはそんなにも安っぽく、

 その誓いの内容も水の上に書かれたようなもので、

吹けば飛ぶようなものなのか?女の息は

 (熱くもあり、冷たくもあるので)生殺与奪を自由とするのか?

誰に想像できたろう、あのように

 美しい音からできた言葉が、二人の心から漏れ出た

あのように多くの溜め息が、二人の間で交わされた多くの誓いや、

 流された涙が、(それらは、二人の恐怖と

こっそり交わす神聖な口づけで、ほかのすべてを封印して

 いっそう甘かったが)いまでは虚しい悦びになるとは。

君が証文を書くのは違約するためで、署名するのは破るためだったのか?

 それとも、君が話すことからは反対の意味を汲み取り、

嘘から真実を見つけ出さなくてはならないのか?

 君に真実を求める者は、まず、嘘を求めねばならないのか?

 

ああ、それは冒とくだ、たいていの女が

 そのような動物であろうと、君だけは違うと信じている。

僕の最も愛しい恋人よ、敵意に満ちた嫉妬心が

 こまごまと君の不実をあげつらおうと、

太陽が大地を照らすのをやめようと、

 実りの大地が実を結ぶことを忘れようと、

川が流れを逆にすることがあろうと、テムズ河が

 六月に氷の肋骨に閉ざされてその流れを止めようと、

世界をその力で持ちこたえている自然が、

 道を踏み外すことがあろうとも、君は変わることがない。

ああ、あの二心を抱いたあいつ、あいつの胸にか弱い君は

 僕たちの秘密の計画を打ち明けた、それで僕たち二人は後悔したが、

彼の嘘に気付くのが遅すぎた、彼こそは

 僕に君の罪を疑わせ、君に僕の罪を疑わせた張本人、

腹黒い卑劣漢の彼は、僕たちが交わした純真な言葉を

 ずる賢い第三者の耳に漏らしたのだ。

そのように僕たちの愛を殺した奴に呪いあれ、

 そして惨めなカインのように、大地をさまようがいい、

同じように惨めに、少しの憐みも受けることもなく。

 彼を苦しめるために、不幸が智恵を働かせるがいい。

誰もが彼を遠ざけ、彼も人目を避けるようになり、

 彼の破廉恥な行為が鼻つまみとなるがいい。

彼が神を三度否定しても良心の呵責を覚えず、

 命にかけて誓おうと誰も彼を信用しないように祈る。

自責の念でついに彼が死んだときには、

 狼が彼の心臓を引き裂き、禿鷲が目を抉り出し、

豚が内臓を食い荒らし、すべてを暴露した

 彼の二枚舌は、大烏に投げ与え、

腐敗した死体は、他のどんな獣に与えるより

 王様の犬に与えて、長い間の御馳走となるように祈る。

 

僕の呪いもこれで仕舞にし、僕たちの愛を甦らせよう。

 僕の中では、愛の炎がいっそう強く燃えている。

ふたたび、口説き、ほめたたえることを始める

 その喜びの中で、僕の借り物の短い人生を

引き延ばすことだってできる。それは画家が

 完成した作品にではなく、作る過程の喜びにも似たもの。

あのころのことを甦らすことだってできる、はじめて

 君の瞳に愛を見たとき、その瞳は僕の舌に

君が好きなものを好きだと言わせる法律となって、仮面劇や芝居を観ては

 同じ俳優たちを、同じような方法で誉めた。

君がどのようにしたかを訊ねては、すすんで

 務めを果たそうと、でしゃばった。

こういったすべてが心地よい楽しみ、その楽しみの中で

 愛は、病気のように巧妙にうつるのだった。

それを得ればすてきな宝となるが、

 それを守るのは得ることより難しい。

だから、二人はそれをおろそかにしてはならない、

 たとえ偶然に手にいれたとしても、巧妙に護らなくてはならない。

 

【訳注】

この詩の初出は1633年、1634年の版でこの題名がつけられたが、この詩は1640年に出版されたベン・ジョンソンの’Underwoods’にも収録されている。ヘレン・ガードナーは、この詩はダンの作品でもジョンソンの作品でもなく、サー・トマス・ローの作品としている。

 

 
 
   
ジョン・ダン全詩集訳 エレジー