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  アカデミック・シェイクスピア・カンパニー公演 『ヴェニスの商人』  No. 2009-016

― 席を変えて、二度目の観劇 ―

 今回は前回(公演の初日)とは場所を変えて、反対側対面に席を移して観劇。
 公演そのものも前回と変わっているところがあるが、それ以上に場所による見え方の違いに驚く。
 前回見えなかったため納得できなかったシャイロックと娘のジェシカの関係が、今回鮮明に見えたことは大きな収穫であった。
 シャイロックがバッサーニオに食事に招かれて出かける前のシーンになるが、シャイロックとジェシカとが無言で演じる場面がある。
 ジェシカが自分の腕にはめたブレスレットを外してシャイロックに渡そうとするが、シャイロックはジェシカに平手打ちをし、そのブレスレットをジェシカの手首に戻してしずかに抱擁する。
 ジェシカはその時父親と別れる決心をしていて、形見にシャイロックにそれを渡そうとしたのだろう。
 それでロレンゾーと駆け落ちするとき、ジェシカはそのブレスレットを壁の十字架(の形をした短剣)に懸けて置いていく(この壁の十字架は前回の位置では全く見えなかった)。
 食事の招待から戻ってきたシャイロックはそのブレスレットを見てすべてを悟る。
 裁判に敗れたシャイロックが自分の死後財産をすべてジェシカとロレンゾーにと残すという証書(十字架の短剣で表象される)と一緒にそのブレスレットがつけられており、ジェシカはそのことですべてを悟って、逃げるようにして退場する。
 その位置関係が前回の席ではほとんど見えていなかったので、何かしっくりしなかったのが今回氷解したような気がした(No. 2009-014参照)。
 人肉裁判の場面では、アントニーオがシャイロックの改宗を条件にして許す時、彼の胸に短剣を突き付けるようにして迫るのも、今回の位置だとそれがはっきりと見え、新しい発見をしたような気分である。
 彩乃木崇之が演じるシャイロックも、初日に較べて演技の振幅の幅がより大きく鮮明になったような気がした。
 ひとり何役も演じる後藤敦と藤田三三三は、前回にも増して舞台を盛り上げ、今回も楽しい気分にしてくれた。
 前回書き残したことで、この舞台は各場面と登場人物の移行をオーバーラップさせて、登場人物の関係を目に見えるような形で提示することで、予兆と余韻を感じさせるという特徴がある。
 それに、軽快でスピーディな台詞で、舞台に弾みがあるのがいい。
 出演者が大いに楽しんでいる気分は、演技の変化にも表われているようだ。
 バッサーニオとポーシャ、グラシアーノとネリッサの結婚がまとまったところに、ポーシャの召使二人(大西伸子と真鍋良彦が演じる)もめでたく自分たちの結婚が決まったと報告に現れ、二人はそこで口づけを交わす場面が新たに加わったのもその一例だろう。
 今回は、シェイクスピアの研究者で翻訳家の松岡和子先生も来られており、「港町シェイクスピア」の増留俊樹さんとも偶然一緒になった。
 <雑司ヶ谷シェイクスピアの森>からは、関場先生、宮垣弘さん、岩槻市三さん、薗田美和子さんが観劇に参加し、帰路、西荻窪の駅前で短い時間ながらも一緒にビールと焼き鳥で感想を語り合えたのも有意義なひと時であった。
 

小田島雄志訳、綾乃木嵩之演出
5月2日(土)14時開演、西荻窪、遊空間がざびぃ、チケット:3800円

 

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