高木登 観劇日記
 
シェイクスピア・シアター公演 『新ハムレット』 No.2002-004

〜太宰治の『新ハムレット』の見事な舞台化〜

太宰治の『新ハムレット』は登場人物が限定され、またシェイクスピアの原作とは相当に異なる所がある。登場人物は、ハムレット、クローヂアス、ガーツルード、ポローニアス、ホレーシオ、レアチーズ、オフイリアの7人のみで、年齢もハムレットとレアチーズが23歳で、ホレーシオが22歳となっている。

クローヂアスはハムレットに「山羊の叔父さん」と呼ばれ親しまれていたが、父の死で母ガーツルードと結婚してからは疎ましい関係(A little more than kin, and less than kind)となる。ハムレットの憂鬱の原因は、オフイリアの妊娠と、二人が結婚できそうにないということにある。ハムレットはイギリスから姫を迎えることになっており、二人の関係をクローヂアスとガーツルードに打ち明けることが出来ない状況にあるからである。このオフイリアの妊娠ということを焦点にして物語は展開される。

ポローニアスはオフイリアの妊娠の事実を城中の噂話で知り、責任を感じて辞表を提出する。

ハムレットがウイッタンバーグに戻りたいという気持は、友人ホレーシオに会いたいからだと察するクローヂアスは、手回しよく彼をデンマークに呼び寄せる。ホレーシオは、ギルデンスターンとローゼンクランツの二人の役割を合わせて持つという性格設定も原作とは大いに異なるが、出口典雄のキャステイングの心憎さは、このホレーシオを今回の連続公演では、先に上演された『ハムレット』でギルデンスターンを演じた松本洋平をあてているので、ホレーシオとギルとのイメージが重なる面白さが出てくる。

ホレーシオがハムレットにもたらしたウイッタンバーグ大学でのデンマークの噂話は、先王ハムレットの亡霊が、自分の敵クローヂアスを討ってくれとエルシノア城に現れているというのである。

亡霊の言葉の真偽を確認するために、クローヂアスの前で芝居をするのを提案するのはポローニアス。

俳優役は、花嫁役にポローニアス、花婿にホレーシオ、亡霊がハムレット。この三人の芝居が実にくだらなく、面白くもないものだが、出口典雄の演出効果でつまらない面白さがよく出ていて面白かった。

この芝居に反応して席を立つのは、クローヂアスではなくガーツルード。

クローヂアスは芝居の後、ポローニアスを自分の部屋に呼びつけ、ここで二人は激しいやりとりをかわす吉田鋼太郎と松木良方がみものである。ポローニアスは、噂を消すには、噂の火をかきたてることで、逆に噂が根も葉もないものとされるようにする意図があるのだとクローヂアスに説明するが、二人の議論の真実は<藪の中>に陥る。ついにクローヂアスは、ポローニスがガーツルードに横恋慕している不忠の臣として、短剣で刺し殺す。ガーツルードは物陰からその光景を見ていて、逃げ去る(舞台ではガーツルーズの姿は見えず、クローヂアスの台詞でのみ示される)。

レアチーズがフランスから戻るのに乗っていた商船がノルウエーの軍艦に襲撃され、レアチーズは勇敢に戦って戦死し、そのことで今にも両国の間に戦争が始まろうとしている。

そこへホレーシオがやってきて、ガーツルードが庭園の小川に身投げしたと告げる。

今回の『ハムレット』と『新ハムレット』の連続公演の出演で同じ役をするのはガートルード(ガーツルード)の吉澤希梨だけで、吉田鋼太郎はハムレットからクローヂアス、松木良方はクローデイアスからポローニアス、杉本政志がホレーシオからハムレットを、変わって演じる。このキャステイングの入れ替えがうまくできているので、二つの公演を連続して観ると非常に面白い。

太宰治の『新ハムレット』は、軟弱で、自己弁護と弁解ばかりでなよなよした感じなのだが、それが出口典雄の演出にかかると、台詞までが生き生きとしてくるから不思議なものだ。

シェイクスピアの『ハムレット』を『表「ハムレット」』、太宰治の『新ハムレット』を『裏「ハムレット」』にした面白さを楽しんだ。 

(東京グローブ座にて、2月15日観劇)

 

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