高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   メジャーリーグ公演 『リチャード三世』           No. 2000_028

 この公演はチラシを見てから早々と8月に予約を入れていた期待の作品で、11月に公演したアカデミック・シェイクスピア・カンパニー(ASC)の『リチャード三世』との比較の上でも興味深いものとなった。
 ASCのテーマが<母の拒絶>を中心に展開されているのに対して、メジャーリーグの公演はそれとは対照的に、リチャードの母ヨーク公爵夫人がまったく登場せず、マーガレットの<呪いの儀式>がキーファクターとなっていた。
 舞台は、マーガレットのこの呪いの儀式から始まる。
 舞台の真正面には、細身の長剣が突き立てられた髑髏があり、その長剣を髑髏から抜き取ったマーガレットが様式的な所作で藁で作られた馬に剣を突き立て、それを葬りさる。
 これは、リチャードの「馬だ!馬をよこせ!代わりに俺の王国をくれてやる、馬!」を喚起させる。
 幕開けのリチャードの冒頭の長々とした独白は、登場人物たちが仮面をつけて、リチャードに代わってコーラスとしての台詞を語る。
 そして、月足らずで醜く生まれた出生については、マーガレットがそのコーラスの後を受けて、呪いの言葉として語る。
 この舞台が円環的構造となっていることについては、最後になって分かる。
 リチャードを倒し、今こそ平和の統合を、と呼びかけるリッチモンドの台詞を、途中からリッチモンドと二役となっているマーガレットがエピローグの台詞として終らせる。
 この演出の特色は、冒頭のリチャードの独白と最後のリッチモンドの台詞をコーラスとして見たて、それぞれを、プロローグ、エピローグの意味を持たせたことであろう。
 休憩なしの2時間の上演時間で、大胆なカットと変更があるのも特徴であった。
 ヨーク公爵夫人が登場しないだけでなく、王妃エリザベスの王子ヨーク公リチャードも登場せず、リチャードに短剣をねだるのを兄のエドワード王子にさせ、リチャードのせむしの体をあてこする台詞も彼に吐かせる。
 カットと変更に多少気になる場面があった。
 たとえば、ヘイスティングズ卿へのスタンリー卿の使いが省略されているため、身の危険の前兆たる「猪に兜をもぎ取られた夢」の話もなく、危険の緊張感が薄れて感じられたのもその一つであった。
 また、登場人物の描き方にも気になる面がかなりあった。
 リッチモンドの義父であるスタンリー卿なども相当へりくだった人物に仕立て上げられていて違和感があった。
 大地康雄のリチャードは、悪人というより道化に近かった。リチャード三世は潜在的に道化の性格を持っているとは思うが、道化の部分が表に出過ぎていて、茶番を演じている気がした。
 旺なつきのマーガレットは若やいだ美しさが勝っておどろおどろしさに欠けていて、男役のリッチモンド役の方が板についていたと思う。
 バッキンガム公を演じた吉田鋼太郎の台詞力はメリハリもあり、しっかりと台詞を聴かせてくれた。
 朝倉摂の舞台美術と、音楽の笠松泰洋のオルガン演奏も特筆すべきものがあった。

 

訳/松岡和子、演出/栗田芳宏、制作/メジャーリーグ
12月10日(日)14時開演、六行会ホール、チケット:5500円、座席:A列13番

 

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