高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   板橋演劇センター公演の『リア王』                  No. 1998-003
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 板橋演劇センターの演劇はアトホームな舞台で、シェイクスピア劇を近しいものとして、親しみのもてる劇として提供してくれる。
 リア王を演じる岡本進之助は今年70歳だという。今回が3度目のリア王で、初演は60歳の時で、2回目が65歳の時だそうだ。
 演技を見ていてその年齢を感じさせず、実に若い、と思った。
 板橋演劇センターの演出は非常にオーソドックスで、分かりやすい劇に仕立て上げられている。
 演技も親しみと愛嬌を感じさせる。何よりもその素直さを評価したい。
 そのうえで、少しばかり演技について。リア王がコーデリアを喪った悲痛な嘆きを感動的に演じ切るのは、やはり至難の業であった。それにリア王の狂気が今一つ力不足。
 キャスティングとしては、エドガーは本当に人のよさそうな感じで、ぴったし適役といったところ。
 リア王の娘、ゴネリルとリーガンは毒々しさに欠け、エドマンドへの愛の競争も淡白であった。特に、リーガンは、台詞のトチリは愛嬌としても、演技がか弱かった。
 グロスター伯が両眼をえぐり出されるときの悲痛さも物足りなさを感じ、ドーヴァーの断崖から飛び降りる場面もリアリティに欠けていた。
 『リア王』を見るときに一番気にしている場面の一つが、リアがコーデリアの死を嘆く場面と、グロスター伯がドーヴァーの断崖を飛び降りる場面で、ここのリアリティを表現するのが一番難しいのではないかと思っているだけによけいに辛く見てしまう。
 この演出では、道化が最後までリア王についていたのは原作と大きく異なっていたのが特徴の一つであった。

 

小田島雄志訳、遠藤栄蔵演出
1月15日(木)17時開演、東京芸術劇場・小ホール、チケット:2300円、全席自由席

 

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