パディーリヤは、舞台を現代のアジアのどこかのマフィアの世界に置き換え、ロミオとジュリエットの二人は歓楽街で勢力を争う家の子供で、ロミオはカメラやコンピューターに凝った現代風若者として、ジュリエットは初潮を迎えたばかりでお見合いをさせられ、心と体が混乱の渦に巻き込まれているような少女として描くとあったので、アジア版『ウェストサイド物語』かと期待していたが、まったく期待外れに終わった。
前半の出足からして退屈で眠気をこらえるのに苦労したが、隣に座っていた女子大生はほとんどずっと眠っていた。
和泉元彌のロミオは狂言回しでしかなく、ジュリエットの羽野昌紀は、はねっ返りのオンナノコという感じで、安っぽいテレビドラマを見せられているようで馬鹿々々しくなった。
個々の俳優はみなそれぞれしっかりしているはずなのに、乳母役のキムラ緑子までにしてが、もうやめてくれと言いたくなるような演出であった。
マーキューシオとティボルトの喧嘩騒動にしてもドタバタでしかなかった。
最悪で笑っちゃうのは、ジュリエットが短剣を胸に刺して自殺する場面。
『夏の夜の夢』の劇中劇のピラマスのように、何度も短剣を胸に刺す所作を繰り返す場は、漫画でしかなかった。
さらに漫画チックなのは、修道士ロレンスが二人の死の責任を追及され、椅子に縛り付けられ、『リア王』のグロスターのように両眼をえぐり出される場面である。
ジュリエットの寝室のセットでは、ポルノ映画の撮影中のような男女の絡み合い。
エンディングの方では、ティボルトとマーキューシオが天使の羽根を付けて現れ、ロミオとジュリエットを紐で縛って振り回す。
感動もなければ、刺激もない。ただ薄っぺらで軽薄としか言いようがない舞台であった。
(翻訳/小田島雄志、演出/ノノン・パディーリヤ、1998年1月10日(土)13時開演、
シアターコクーンにて観劇。
チケット:(S席)6500円、座席:1階 Q列3番)
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