牧歌詩 1613年12月26日
アロファニーズは、アイディオスがクリスマスの日、サマセット伯の結婚式に、宮廷に参列せず、田舎に引きこもっていたことを咎める。アイディオスは、田舎にいた理由と欠席した理由を説明する。
アロファニーズ
季節外れの男、氷の像のような奴よ、
何を好き好んで淋しい田舎へと引き込んだのだ、
この一年の中でも寒くて、うらさびれた最中(さなか)に。
自然の本能は暖かなところへと誘い、
小鳥たちでさえ、勇気を振り絞って、
群れをなして、海を越え、空を渡っていくというのに。
野原にどんなご馳走があるというのか、
花の女神フローラですら粗末な厚着をしているというのに。
風は、すべての木や生垣から葉を剥ぎ取って、
君の狂気を抑えるための笞を用意する
のに怠りない。泉もみな、霜で
凍りつき、その優しいせせらぎの音も消え果てた。
君が犯した過ちや不運の数々を嘆いてのことなら、
その神妙な行いは、レント(注:1)の日々にやりたまえ。
宮廷では、もう春がそこまでやって来ており、
太陽も長く照るようになった。だが、その栄光は
太陽のものではなく、別のもの、別の光である。
最初に、国王と国家への熱情が、次に、愛の欲望が
一つの胸の中で燃える。天の二つの偉大な光のように、
初めのものは昼を支配し、もう一つのものは夜を支配する。
その次には、原始の光(注:2)が、
太陽や月が創造される前に現れる、
それは国王の寵愛の光、それがあまねく照らし、
そこから、あらゆる幸運、称号、性質が生まれる。
星の子宮である花嫁の輝く瞳が
眺めるたび、そこから星座が飛び散り、
宮廷に星を植え付け、光り輝く力において、
すべてが目である天空に勝る。
彼女の瞳は、まず、他の貴夫人たちの目に灯をともす。
すると、その光線で彼女たちの宝石が一段と輝く。
その宝石の輝きによって松明の灯がともり、
すべてのものが暖かく、明るくなり、希望がわいてくる。
他の宮廷の多くは、地獄のようなもの、
そこでは、光のない火が、暗い陰謀の中に住まわっている。
あるいは、暖炉の火のような人工的な熱が
欲情と嫉妬のために、絶えることなく燃えている。
ここでは、熱情と愛が一体となり、雲はみな消え失せ、
宮廷は永遠に東の空となる。
それでも君はそこから出てこないのか?
アイディオス
いや、僕はそこにいる。
天空があまねく人々に開かれているように、
宮廷も同じだ。王族たちが命を与えるのは、
自分たちの家だけではなく、国家全体に対してなのだ。
自分だけ満足すれば事足りると思ってはならない。
王様は(神を手本として)惜しみなく
満たすだけでなく、
心の狭い人の心を広くし、王様の与える祝福を、
感じ、見て、理解する能力を人々に与えなくてはならない。
世を捨てた隠者の方が、俗界の者より
天の栄光を知っていることはよくあることだ。
人が世界の縮図であるといわれるように、人の心も
神が造られた創造物の偉大な書物の要約なので、
別に遠くを見る必要はない。
同じように、田舎も宮廷の縮図であり、優しい平和が
一つの共通の魂として、両方に命を与えるので、
僕は、宮廷から離れていることにはならない。
アロファニーズ
君は、夢想家だ。
馬鹿げたことだとは思わないか、
味付けに、わずかばかりの胡椒や竜涎香を所有しているからといって、
東インドに向かう艦隊に自分が乗り込んでいると考えるのは。
君は凍えていないから、暖かいというのか?
害がなければ、すべてよしと見なすのか?
大地の内臓には
物質が整然と内蔵され、時を得れば黄金ともなるが、
それが大地の上の方にないかぎり、その望みはない、
天の目によってそれは黄金となるのだから。
神に関して言えば、信仰は天より下るもの、
同様に、世俗に関しては、最善の機能はすべからく
上からの権力者から下る。宗教は神より生じ、
智恵と名誉は王から授かるのがならわし。
だから自分を偽るのをよして、僕の言うことを聞きたまえ、
天使は、地上でその務めを果たすが、
常には天にいる。それと同じように、常には故郷にいる者も
故郷を離れて立派な行いをする。
だから、自分を叱るがいい。ああ、愚かな者よ、昨日は
どんな本に書かれていることよりも多くのことを学べたのに。
君は、宮廷のことを著わした物語を目にしたことがあるか、
そこでは、すべての人が王様の御意に賛同し、
王様がいわれることはみな正しいと認める。
それに、そこでは人を信じることは軽率なことではない。
そこには野望はなく、あるのは従順だけ。
声をひそめて話す必要はないが、してもかまわない。
王様の愛は等しく注がれるので、人々はみな
王様が自分たちを惜しみなく愛していると思う。
それは、王様の愛が、
すべての人の憧れる美徳に向けられたものであるから。
君はそれを目にしなかった。それがここにあったのだ、しかもそれ以上のことが。
昔も今も変わらない、賢明で、熱烈な恋人がここにいたのだ。
例の小さなキューピッドは貴族のお仕着せを願い出て、
もはや未成年ではなくなり、
今では、あの人の胸に受け入れられた。
王様の相談ごとや秘密が納まっているあの胸に。
君は何というものを見逃したことか、無知な男よ、ああ。
アイディオス
そんなことは
みんな分かっていた、だからこそ僕は引っ込んでいたのだ。
こういったことすべてを知り、感じて、
それを表現する言葉をもたないのは、自分の思考を
墓に葬るようなものだ。そういうわけで、僕は
祝宴に出たくなかった。体面を保つ言葉もなかったから。
だが、ここでも僕は逃れられなかった。みんなと同じように
喜びでいっぱいだったので、つい筆を執った。
だから、この婚礼の唄を読んでくれたまえ。これは
宮廷や、人々の心に取り入るものではない、しかし、
僕は、死んで埋葬されているので、
墓碑を書くことができなかった。墓碑を書いておれば、
この貧しい唄よりは僕の名声を高めていただろう。この唄は、
あの日、僕が捧げ物を忘れなかったことを証明するものだ。
婚礼祝歌
T 婚礼の時
おまえは救われた、老いた年よ、もう死ぬことはない。
おまえは死の床についていて、
五日もすれば死ぬところであった。
おまえは大きな火の玉によって救われた。
それは、おまえの古びた魂である太陽、
その太陽が最も大きな軌道を走っている時(注:3)よりも大きなものだ。
東西の航路の氷が解け、
水となった顎をたやすく開いては
すべての船を通すことになるだろう、プロメテウス(注:4)の技で
北方の極に、この燃えるような瞳の炎か、
この愛する心の炎を与えることができるなら。
U 人格の同等
だが、分別のないミューズよ、この新しい夫婦の
どちらの心、どちらの瞳を称賛するのだ、
彼の瞳が、彼女の瞳と同じように輝き、
彼女の心が、彼の心に劣らず愛しているとき。
美しさで判断してみるがいい、そうすれば
花婿は乙女となって、男ではなくなる。
男らしい勇気を持って判断すれば、
不当な風評(注:5)を笑い飛ばして、花嫁は
男となるだろう。不運や嫉妬で、
自然ですら引き裂くことのできない、この二人の仲を裂けるとでも?
ふたりはともに、輝く瞳と、愛する心を持っているのに。
V 花婿の起床
あなたひとりのことを考えるのは、
二人で一人のあなた方を引き裂くようなものですが、
ここではあなた一人に思いをめぐらせることにします。
まず、ご機嫌な花婿さん、私が目にするのは、
どのように、あなたが太陽に先んじて、
彼の真っ赤な泡を吹く馬を追い越すかです、
あなたの君主の胸の中で中断した
すべての用件を、再び始めるのは
この凱旋の宴が終わった後のこと。あなたが熱心に
彼女に見せようとするものは、彼女も同じように分かち与える
輝く瞳の炎と、愛する心です。
W 花嫁の起床
さあ、今度はあなたの番です、美しい花嫁、間違っていますよ、
そんなに長く寝ていたいと思うのは。
あなたは誰よりも早く最初に床に就くので、
そのためにも最初に起きなくてはなりません。
あなたの輝く髪に髪粉をふりかけなさい、
あなたがそのような灰を被ることがなければ、
一目見ようとやってくる人々にとって、あなたは
太陽であるはずが、パエトン(注:6)となるでしょう。
私たちのために、あなたの瞳に喜びの極みの
涙を浮かべて下さい。そうして火を消せば、あなたは与えることができます、
私たちには、あなたの輝く瞳を、彼には、あなたの愛の心を。
X 彼女の身支度
このように、あなたが私たちの弱点まで身を落とすことで、
私たちは初めて水面に映った太陽を見ることができます。
あなたは絹と金に包まれることで、
ご自身を曇らせます。それを見つめる私たちは、
土塊(つちくれ)と虫けらからできているので、
虫けらと土塊の果実(注:7)が、私たちの目的物であるのは当然です。
宝石をことごとく輝く星としたところで、
星は、天球のように純粋ではありません。
あなたがその身を落としたところで、私たちに見えるのはその一部だけ、
でも、あなたの全体を絵姿に表わすのは、
あなたの輝く瞳が彼の愛する心の中で為せる業なのです。
Y 礼拝堂に行く
あなた方が東の方より出て行くと、
糸杉の向こうに昇る太陽を見る人に、
太陽が二つあると見えるように、
あなた方が教会に行く時には、二つの太陽に見えます。
でも、そのベールを脱げば、
教会の儀式によって、あなた方はこれより一心同体となります。
勝利の教会(注:8)はかつてこの結婚を有効とし、
今では戦う教会も最早争いません。
ですから、神さまの記録係である、敬愛すべき神父様、
このお二人に、神さまの指図に従って、
天使が目で見、心で考えつく祝福のすべてをお与えください。
Z 祝 福
祝福された二羽の白鳥(注:9)よ、あなた方は日々
新たな悦びを分かち合い、決して最後の唄を歌うことなく、
長生きするのです、地上での願いごとがことごとく満たされ、
名誉にも、智恵にも、新鮮味を感じなくなり、
偉大なる高みへと昇りたくなるまでは。
その望みは死によって遂げられるものです。
子孫を設けるのです、この世の終わりまで地上で長生きをし、
あなた方の子孫が捧げる感謝を、王様の子孫が受けられるように。
すべて自然と神さまの恩寵の賜物とし、なにごとにも巧みをせず、
決して老いることもなく、道を踏み外して
その輝く瞳を西(注:10)に向けることなく、その心を北に向ける過ちをせぬように。
[ 饗宴と祝宴
あなた方は、祝福を受け過ぎている。過剰がこの日を
傷つけ、時間が止まってしまった。
食卓は呻き声をあげ、饗宴が
洪水のように、鳥や獣をことごとく滅ぼしかねない。
それで、地球が回る(注:11)
という新しい学説が、今日は本当のように思える。
それは、すべての人が踊り、浮かれ騒いでいるから。
人々は、宙を歩き、同じ場所に降りることはない。
太陽が眠りについて、六時間が過ぎたというのに、
仮面劇や宴会が続いて、いまだに疲れた眼(まなこ)に日没を与えず、
この心に中心(注:12)を与えようとはしない。
\ 花嫁の床入り
いったい、いつまで付き合っているつもりです、花嫁さん、
眠くなるまで起きているつもりですか?
横になっても、眠ることはできないのですよ。
あなたご自身が彼の新たなご馳走となって、
ふたりで楽しみ、
今日一日の踊りを繰り返し踊らなくてはならないのです。
ご存知のように、太陽と月が時を同じくして昇っても、
一緒に沈むことはないのです。
ですから、美しい花嫁さん、先に寝床へお行きなさい。
行っても、あなたがいなくなるわけではありません。どこへ行こうと、
あなたの不眠の眼(まなこ)と、愛する心を、彼に残して行くのですから。
X 花婿の到来
星が落ちるのを見て、急いで追いかけて行く人が、
落ちた場所にゼリー状のもの(注:13)を発見するように、
花婿も同じように急ぎ行くと、
星が落ちたと言われる場所に、ゼリー状の彼女を見つける。
友達でも見知らぬ人に見えることがある、
新しい流行を身につけ、衣裳を着替えると。
二人の魂は、互いに古くからの馴染みであっても、
この衣装や、体つきはこれまで見たことのないものだった。
初めのうちこそ彼女はしとやかな動きをするが、
たちまち、すべての部分を任せてしまう、
これまで、惜しみなく、互いに、瞳や心を与えあったように。
XI お休みなさい
タリア(注:14)の墓では、一つのランプが明々と燃えていたという、
千五百年もの間、消えることなく。
そのように、私たちがここ聖堂に納める愛の灯火も、
暖かく、明るく、消えることなく、神にも等しくあらんことを。
火は、高く舞い上がろうとするもの。
あらゆるものを自分に似せ、すべてを火と化す、
そして最後には灰となるが、この火はそうはならない。
それは燃料ではなく、火そのものだから。
それは、喜びのかがり火。愛の強力な技によって
二人の気高い部分を選りすぐって造り上げたもの、すなわち、
四つの輝く瞳と、二つの愛する心からなる、一つの火。
アイディオス
この唄は僕が持ってきたもの、
捧げ物として完璧にするために、燃やそうと思う。
アロファニーズ
駄目だ、君。この詩は僕がもらったもの。
香を焚けば、その香りは
それを捧げた人だけのものではなく、すべての人のものとなるように、
このお祭りを祝うものが何であろうと、
皆のものであり、喜びは皆の共有物なのだ。
それに君自身が神父となる必要はない。僕が
宮廷に取って返し、この詩を
君の捧げ物として祭壇に置いて来よう。
【訳注】
「牧歌詩 1613年12月26日」
注:1 レント(四旬節)は受難節ともいい、聖灰の水曜日から復活祭前夜までの40日間。荒野のキリストを記念するために断食や懺悔を行う。
注:2 神は第一日目に光を創造し、太陽と月は四日目に現れた(『創世記』)。原始の光は、ここでは国王その人を指す。
「婚礼祝歌」
A.J. Smithの編纂では各章の番号が付けられていないが、他の版にならって各章に番号を付記する。1633-69年までの版には「婚礼祝歌」の題名は付されていなかった。
注:3 太陽が最も大きな軌道を走っている時とは、夏至のことで、6月の下旬。
注:4 プロメテウスは、天の火を盗んで人間にその火を与えた。
注:5 不当な風評とは、ふたりの結婚に対する醜聞。
注:6 パエトンは太陽神ポイポスの息子で、日輪の車を借りたがその馬を制御できず、危うく世界を火事にするところをゼウスが雷斧で彼を打ちのめし、火事から救った。
注:7 虫けらと土塊の果実とは、絹と金のこと。
注:8 「勝利の教会」は天国にある教会、「戦う教会」は地上にある教会。
注:9 白鳥は死ぬ間際に歌うと言われている。
注:10 西は、陽の傾く方角で、北は寒さと不毛を表象する。
注:11 「地球が回るという新しい学説」は、ポーランドの天文学者コペルニクス(1473-1543)が唱えた地動説。紀元前3世紀のギリシアの天文学者、サモス(エーゲ海東部の島で、古代ギリシアの商業中心地)のアリスタルコスが地動説の先駆者。
注:12 「中心」とは、『唄とソネット』の中の詩篇’The Sun Rising’の最終行(30行)に、’This bed thycenter is’とあるように、「寝台」を比喩する。
注:13 流れ星や彗星が落ちた場所に、ゼリー状の塊の藻類が現れると信じられていた。
注:14 タリアはローマの哲学者キケロの娘。1500年後にアッピア街道で彼女の遺体が発見されたとき、その傍らの灯火がいまだに燃えていたが、外気に触れると彼女の遺体は、灯火と共に灰塵と化したという伝説がある。