高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
   ゆく道きた道 第2回公演 『エドヒガン』            No. 2026-002

 昨年4月に旗揚げ公演、『通夜もなかばを過ぎて』を上演したシニアの集団「ゆく道きた道」の第2回公演。
 シニア集団ならではの思わぬアクシデントもあるようで、前回は番藤松五郎がけがで降板、今回は出演予定の佐野眞一が降板、さらには演出の岡崎良彦が稽古の途中段階で酒井菜月に急に交代し、現場ではかなり混乱(?)したようである(チラシの内容は変更されておらず、出演者情報による)。
 今回のテーマは埋蔵金掘り当てをめぐっての喜劇。
 舞台は、2026年の現在と60年前の1966年を交互に交錯させて展開する。
 今は資料館となっている明治に建てられた旧成瀬家の旧宅に、開館時間前に突然数名の女性たちが押しかけてきて家の中まで上がり込んで、資料館の館長が戸惑っている場面から始まる。
 その女性たちの一人は、かつてこの資料館となっている旧宅の持ち主であった成瀬はなで、彼女は埋蔵金ハンターとして少しは知られた人物で、他の女性たちは彼女の高校時代の同級生で、彼女の同級生で生徒会長だった人物、小坂なども登場してくる。
 はなは、彼女の曾祖母つやが果たせなかった埋蔵金を掘り出そうと、学校の教師でもある郷土史家の新たな資料をもとに、成瀬家に埋蔵金が埋まっていることを確信して、この旧宅を壊して発掘しようとしているのだった。
 彼女は埋蔵金ハンターとして全国的にも知られた存在であったのが、10年前からぽっつりその消息を絶ってしまう。彼女の謎の逼塞と埋蔵金をめぐってのエピソードがミステリー的に展開することで、その謎を解き明かしたいという欲求で観客は舞台に引き込まれていくことになる。
 1966年という時代設定からビートルズの来日公演などのエピソードも出てきたりして、同世代の者にとっては懐かしい思い出がよみがえってくる。そんなレトロな感覚がなつかしい。
 60年前と現在が交互に交錯して展開していくなかで、新たな謎が広がる一方、少しずつ謎が解けていく。
 曾祖母つやが、なぜ埋蔵金の発掘を諦めたのか、彼女の残した日記が発見されたことでそのことが明らかにされる。
 それは今回と同じように、郷土史家の資料発見から埋蔵金が床下ではなく庭に咲く樹齢500年の桜の木、エドヒガンの根元に埋まっていることが分かって、桜の木を掘り起こすことを諦めたからであった。
 はなはそれでも曾祖母のつやとは違って、エドヒガンを切り倒してでも埋蔵金を掘り当てるつもりである。
 はなの周囲の人物として、地域の住民や、はなの同級生たちが埋蔵金で町おこしを期待してはしゃいでいる一方、樹齢500年のエドヒガンを切り倒すことに反対する者もいることで事態は紛糾する。
 騒動の渦中で、はなは気分を鎮めるためにひとり庭に出てエドヒガンを眺めていたことで、彼女の決心も変化する。そして、彼女が10年間の謎の逼塞の後、なぜかつての同級生たちの前に現れたかも明らかにされる。
 彼女は遅延性の認知症で、徐々に自分を失っていく前に、自分を自由に表現しようと思いたったのであった。それが、この埋蔵金発掘という行為を駆り立てたのであった。彼女の自由さを小坂の顧問弁護士がうらやむ発言があり、それがこの劇の最後に、弁護士をリタイアしたという台詞で彼女の生き方に具現化される。
 はなが桜の木を切り倒すのを諦めたとき、彼女の孫はなが登場し、60年前のつやの夫である成瀬正宗に抱かれ、60年前の人たちと現代の人たちが一同となって舞台一面に横並びとなって桜の花びらが散る中にたたずんでその桜を眺めている光景で舞台が明るく輝き、一転して暗転する。
 その感動的な瞬間を以て終幕かと思えたが、舞台は再び明るくなって、成瀬家旧宅資料館の館長が掃除をしているところへ、はなの同級生で生徒会長であった小坂の顧問弁護士がやってきて、弁護士をリタイアして片道切符での世界旅行をすると挨拶を告げる。
 この劇の登場人物は出演者のあてがきとなっているわけではないと思うが、その弁護士を演じたYさんの花道の台詞のように聞こえたのは気のせいでもないと思える。
 シニアの団体だけに、一年ごとの公演では少しずつ欠けていく人が出てくるだろう。昨年の公演では鶴、亀の2組で、各チーム15名ずつの出演が、今回は1チームだけの公演で人数も総勢18名となって、昨年より減っている。
 その中で、今回最後に登場してくるはなの孫のはなは小学校に上がる前の幼い女の子が演じており、3世代おきにこの埋蔵金を発掘しようとする人物が現れることを予兆するようでもあり、「ゆく道きた道」の将来を託すようにも感じられる象徴的な存在であった。
 エドヒガンという言葉のひびきが、埋蔵金と結びついて「江戸悲願」と感じられたのも一興であった。
 上演時間は、シニアにとっては演じる側も観る側にとってもやさしい、1時間15分であった。


作/麻草郁、演出/酒井菜月
2月20日(金)16時開演、武蔵野芸能劇場・小劇場、チケット:4500円、全席自由


>>別館トップページへ