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劇団のことをはじめ、作品の内容も何もかも全く知らないままに観たので、最初から驚くことばかりであった。
開場10分前でかなり多くの人で、チケット引き取りに結構時間を要した。入場のための整理番号は72番であったが、幸いにも最前列の上手側が空いていたのでその席をゲット。この日は満席だということだった。
舞台中央の奥には、三角形をした奇岩が二つ、舞台両側に上演中に使用される種々の楽器が置かれ、仮面が用意されている。自分の席は、その上手側の、楽器と仮面が置かれている真ん前の席なので、舞台の中央からはかなり離れていたが、始まってみると全く問題なかった。
開演の合図もなく、いきなり静かに舞台は始まり、最初に聞こえてくる声が実に不思議な声で、お経でもなく、御詠歌でもなく、自分にはそれをどのように表現したらいいのか分からなかった。
この観劇日記を書く前になって当日渡されたパンフレットを読んで初めていろいろなことが分かった。
まず、この作品の原作が中世の作者不詳の説教『をぐり』であり、本作でも説教版の持つ「祈りの精神」を引き継ぐべく説教の原文をほぼそのまま使って、「簡潔で力強い原文の音声表現」によってこの物語の世界観を伝えようとしているという事が分かった。
本作は、2020年に亡くなったこの劇団創設者で前代表であった遠藤啄郎の追悼作品として、劇団の代表作である旧版『小栗判官・照手姫』を、新版として2023年に藤沢の遊行寺本堂で初演された後、各所で上演され、今回、更に趣向を凝らして、座・高円寺での公演となったものである。
旧版の作者である遠藤は、『小栗』の成功の後、「現代の叙事詩を書きたい」と言っていたそうであるが、自分が観た感想としては、この劇は立派に「叙事詩」であると感じられるものであった。
物語そのものは、原文の説教節で語られるが、字幕の説明もあって内容は十分に理解できただけでなく、シェイクスピアに類似したものさえ感じるところがあった。
それは、照手姫が相模川に石をつけて沈められようとしていたが、情けある家臣の計らいで一命をとりとめるものの、人買いの手にわたって遊女屋に売られる。しかし、照手は亡き夫小栗への操を守って客を取ることを拒み、十六人分の下女の仕事を引き受ける。
この話は、シェイクスピアの『ペリクリーズ』の、海賊にさらわれて遊女屋に売られたペリクリーズの娘マリーナを思い出させ、小栗の死からの生還は、ペリクリーズの妻タイーサの死からの蘇生を思い出させる。そして、小栗と照手との再会は、『ペリクリーズ』のテーマともなっている「死と再生と再会」とも密接に結びつく。
その所作や台詞回しから、能と狂言と歌舞伎が一つに融合されたように感じられる舞台であった。
出演は、小栗に松本利洋、照手や大蛇などに柿澤亜友美、後藤、横山、漁父の太夫、人買い、閻魔に丹下一、ほか総勢9名で、全員が複数の役割を演じ、器楽演奏に携わる。
上演時間は、途中15分の休憩を挟んで、3時間。
終演後にミニライブとして、上演中に使用された楽器の紹介と演奏、および出演者の自己紹介が30分ほどなされた。
脚本・仮面/遠藤啄郎、構成・演出・仮面/吉岡紗矢
総監修・舞台美術・衣装・仮面/堀尾幸男、音楽/松本利洋
11月29日(土)15時開演、座・高円寺1、チケット:4500円、全席自由
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