高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
   燐光群公演 『高知パルプ生コン事件』           No. 2025-026

― 「これは実力行使の、民主主義だ!」 ―

 これはいつものことだが、坂手洋二のドラマを観るときは緊張の重さと、心の内側に生じる何とも言いようのない怒りのマグマでどっと疲れる。そして、その怒りの虚しさに襲われてしまう。
 高知パルプの生コン事件などということは、この劇を見るまで全く知らなかった。
 この劇は、2026年という近未来の岡山県吉備町から、時空のよじれから1971年の高知県の旭町に突如やって来た少女を通して展開していく。彼女は、高知パルプの工員として働くようになり、事態の推移を見守っていく。
 高知パルプの工場廃液が旭町を流れる江ノ口川とそこから流れる浦戸湾を汚染し、住民たちは工場から漂ってくる硫化水素に苦しみ、廃液の臭いに悩まされている。
 ドラマは高知パルプの問題だけでなく、高知県の漁師たちが同じような時期に、南太平洋でのアメリカによる核実験による放射能と死の灰で200隻以上の漁船が被害を被った話も出てくる。
 そして近未来から来た少女の吉備町では、PFASに汚染された産業廃棄物の500キロ詰めコンテナバッグ600体による被害がもたらされていて、誰もその責任を負おうとしないことが、少女とその父親から語られる。
 行政が関わって、安全基準値の数値が恣意的にころころと変えられることが語られる。
 高知パルプに関連したことでは、工場廃液の安全基準値が当時の150ppmから600ppmに引き上げられ、また、PFASの基準値が1リットル当たり、米国規制値の4ナノグラムに対し、日本では50ナノグラムと定められたことなどについてその根拠も示されていないことが指摘される。
また、福島原発の放射能汚染土の再利用基準値は、事故前には100bq/kgであったものが、8000bq/kg以下とされたが、なぜその数値が「安全」とされるに至ったかの経緯は全く示されていない。
 国や行政のこのようなありようを見ていると、老子の「無為」の思想や、プラトンの『国家論』を思わずにはいられない。そして、このような劇は、もっと若い人たちに見てほしいと思うが、観客は平日のマチネということもあって高齢者がほとんど。
 この劇の舞台である「旭町」出身の知人に偶然劇場で逢ったが、彼女いわく、劇中で語られる土佐弁は、本来のものであればもっとおかしみのあるユーモラスなものなのに、そこが出ていないのが残念だと言っていた。
 上演時間は、休憩なしで 2時間30分。


作・演出/坂手洋二
11月4日(火)14時開演、下北沢・「劇」小劇場、チケット:5000円


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