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~ 基本のテーマは「ワナをかけること」(「演出ノート」より)~
シアターXのプロデュース公演で、ブレヒト作品で、しかもチケットが1000円ということで、何も考えずに予約していたが、当日は千穐楽で、開場15分前に到着したにもかかわらず、すでに2,30名の人が整列して並んでいた。
平日のマチネとあって大半は年配者であった(自分もその一人であるが)。
席は予約でいっぱいのため、当日券の観客のために臨時の補助席作りのため、開演が15分近く遅れるほどだった。
自分は早くに予約していて予約番号も19番だったので、前から2列目で中央ブロックの下手側通路から2番目の席をゲットできた。
事前に何もチェックしておらず、出演者についてもまったく気にしていなかったのだが、当日もらったA3サイズの三つ折りのプログラムで、登場人物を演じる俳優の経歴を見て、本格派オペラ歌手の錚々たるメンバーであることに驚いた(といっても、自分はこの方面には疎いので誰一人知らなかったが)。
出演者だけでなく演出家の井田邦明についてもその経歴と活動を見て驚いた。
『三文オペラ』はこれまでにもいくつか観たことはあるが、今回のような本格的な(?!)音楽劇は初めてだった。これまで自分が観たのは「劇」が主で、音楽は「従」のように受けとめていたが、今回は、音楽がメインとして突出していて、本格的なオペラを聞かされる思いであった。
「演出ノート」には、「作曲家クルト・ヴァイルの原曲の魅を引き出すため、編曲をさけ、オペラ歌手にオリジナルの曲を唄っていただきます」とあるのがそのことを裏付けていた。
結末部を除いて大体の内容は覚えていたが、どす(匕首)のメッキ―の絞首刑の場面でピーチャムが、「観客の皆さんのことを考えまして、法律より慈悲が起こるのをご覧になれますように、女王の馬上の使者を登場させます」という台詞以下については原作にないものかと思ったが、戻って調べると原作通りであった。あの場面でのピーチャムの台詞には臨場感迫るものがあったので、そこで原作とは異なる演出をしたと思ってしまった。
『三文オペラ』の芝居としての面白さは、メッキ―が絞首刑の代わりに恩赦で貴族の称号と1万ポンドの終身年金を得るこの最後のどんでん返しや、平気で人を裏切り、社会の秩序、善悪をひっくり返し、乞食社会、泥棒社会を肯定するかのような風刺にある。
この劇の演出家、井田邦明は「演出ノート」で<ブレヒトは今も生きている>として、<三文オペラの登場人物達はみな己の生き残りにかけている。人物は抜け目なく、金や権力・欲望に目がくらんでいる。基本のテーマはワナをかけること。人物は愚かにも己の仕かけたワナにおちる。この事実を極限まで追い込むと人間喜劇になり、隠れた悲劇的な本質があらわれる>と記して、『三文オペラ』がペイソスを含んだ人間喜劇であることを言い表している。そして、さらに付け加える。
<世界は有意義でも不条理でもない。矛盾に満ちた苦悩によって生まれる情報社会の機械仕掛けの見世物小屋の中の「人間のポエジー」>だと。
観劇中、本格的な歌唱力に圧倒されて、自分にはむしろ「猫に小判」であったが、シアターXのこのような企画には感謝と、敬意の念しかない。
出演者は、乞食社会の事業主ピーチャムに池田直樹、ピーチャム夫人に菊池美奈、このお二人は共に東京藝術大学大学院修了で二期会の会員。どすのメッキ―に、新国立劇場オペラ研修所卒の与那城敬、ピーチャムの娘でメッキ―の妻となるポリー・ピーチャムに帚木菜々、警視総監ブラウンに山本亘、飲み屋のジェニーに国立音楽大学大学院修了で東京二期会会員の小林由佳、ブラウンの娘ルーシーに東京音楽大学大学院修了で二期会会員の石野真帆、他で、総勢12名。
演奏は、ドラム・パーカッションを田中桂一郎、サックス・フルートを成田由美。
上演時間は、途中15分の休憩をはさんで、3時間。
作/ベルトルト・ブレヒト、作曲/クルト・ヴァイル、翻訳/岩淵達治
演出・美術/井田邦明、音楽監督・指揮/高木耀子
10月7日(火)14時開演、領国・シアターX、チケット:1000円、全席自由
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