「ありがとう。宙を舞う、わたしの遺した言葉たちがいま、つながる」
昨年11月に53年の生涯を閉じられた劇団の主宰者であり、作者である西口千草を追悼しての公演で、未発表の作品を含めて5作品の上演。
5作品を立て続けに観ての全体の印象は、「いのち」であった。「生命」とともに、「魂」、そして生きる「いのちを紡ぐ」作品群である。その「いのち」を「ことば」が紡ぎ出す人生のドラマである。それは、決して声高なものではなく、断片的でありながら、全体であるものであった。
最初は未発表作品である『アニマライズ』。そのタイトルは、動物の「アニマル」とカテゴリーの「カテゴライズ」を組み合わせたもので、明日は動物園に行くというその日の夜、家族4人がそれぞれ動物になった夢を見る。父親はアライグマ、母親はパンダ、男の子は傷ついたアザラシ、女の子は子豚になる。それぞれが見た夢はそれぞれに意味があり、父親がなったアライグマは害獣として駆除の対象となっている現実、母親のパンダは動物園に行くことに関係しており、男の子の傷ついたアザラシは夕食後に観ていたテレビの話題から、そして女の子の豚の夢は、彼女が夕食で食べ残した豚肉にはビタミンB1があるという母親の説教がもとになっている。夢から覚めた後、彼らは一瞬、夢が現実なのか、動物であるのが現実なのか、とまどってしまう。いずれも「いのち」に関わっている。
次は、かつて作者が一人芝居で演じたという『三日月は欠けた月なんかじゃない』。自分は何かにかけていて、何かを足さないと完全なものにはならない、なれないと思い悩んでいるOL.が、最後に、三日月は「欠けている」のではなく、「三日月」として完全であるということに気付いて、その生き方に覚醒する話。
3番目の作品は、ファンタジーめいた『ミガカヌカガミ』。このタイトルは逆から読んでも「ミガカヌカガミ」となり、実際の人生と、望みとしての人生の世界を見せる鏡の話で、主人公は「鏡神社」の跡取り娘。彼女は、婚約者と一緒に福引で当たった招待旅行のバスの事故で亡くなっており、男性は意識不明の重体となっている。が、彼女は婚約者が突然の事故で行けなくなり、代わりに彼女の両親に行ってもらう所からこの劇は始まる。そして、そのバス旅行の事故で母親が亡くなり、父親が重体であるという知らせが入る。彼女は見てはいけないといわれている神社所蔵の箱に入った「鏡」を開けて見てしまう。しかし、そこには自分の顔が映っていない。それは彼女が現実の世界では生きてはいないからであるが、霊力を持った祖母の力を借りて、自分が望むアナザー・ワールドに自分を置き換える試みを繰り返すが、どの世界でも彼女の関係者が不幸に陥ってしまう。彼女が鏡の持っている最後の力で選択するのは、自分に起った現実を受け入れることであった。彼女の不幸は、見てはいけないという禁断を犯したためだと悔いるが、最後にそうではなかったことが明らかになる。彼女の妹が、彼女と結婚するはずであった男性と結婚していて、両親とともに新たに生まれてきた赤ん坊を伴って彼女の墓参りをしている。彼女が自転車事故で負った傷痕がその赤ん坊の手首に同じようにあるということから、彼女の生まれ変わりであるかのように示唆される、新たな「いのち」のミステリアスなファンタジーである。
4番目の作品は、これから生まれてくる胎児と、今まさにその生涯を終えようとしている老人を通して語られる、人間の「いのち」のパラレルな話である。
最後は、未発表の『主人公不在』。この上演の最後を飾るにふさわしい象徴的なタイトルである。 仲のよくない4人兄弟姉妹が、父親の四十九日を迎えたその日、父の遺品である「椅子」を棄てようとするが、いくら捨てても戻ってくるので、壊そうとするが壊れない。そこで、椅子を焼いてしまおうとする。そこへ、父親の愛人の娘、緑子が焼香に訪れてくる。椅子を焼いている火が家に燃え移り、兄弟姉妹と緑子が一緒になって火を消し止め、緑子はその椅子を父親の形見としてもらって帰る。この話しの主人公は、亡くなった不実な父親であるが、それは椅子に表象されるだけで、一切登場しない。最後は、緑子がその椅子に愛し気にうつ伏しているところで舞台が暗転し、再び照明がつくと、椅子の上には西口千草の遺影が燦然と飾られている。「いのち」がそこに蘇っている。
休憩なしで、2時間20分を15人の出演者(ダブルキャストの出演者を入れると20名)たちが、それぞれの舞台を演じる。公演は一部ダブルキャストで、「べーちゃん組」と「チーコ組」の2組で、自分は「べーちゃん組」の公演を観劇。
出演者たちの朴訥とでも言える演技が素朴な感動を与えてくれる舞台であった。
これを追悼公演で終らせるのではなく、これから先も西口千草の作品を伝えていくことが彼女への何よりの供養になると思うので、是非、続けて行ってほしいものである。
なお、表題の文言はチラシの言葉をそのまま転用させてもらった。
作/西口千草、演出・音響/西口卓男
9月14日(日)13時開演、武蔵野芸能劇場小劇場、チケット:4500円、全席自由
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