高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
   VQ企画第三回公演 幻想劇 『笑ふ漱石~猫と作家とその妻と』    No. 2025-016

 ふだんは靴を脱いで上がる阿佐ヶ谷ワークショップであるが、観客席には草色のシートを敷いて靴のまま上がれるようにしていて、会場の雰囲気がそれだけでも心が和むような明るさ。
鉤型に椅子をならべた観客席が、2m四方ほどの円形にふちどりされた舞台が鮮やかに目に飛び込んでくる。通常だと40席で満席になる広さしかないが、この日は50席の椅子が満席で別に特別席を設ける程の大入りであった。
 開演前から舞台にはこの日の出演者の一人、原田達也が、中を円形にくりぬいた30㎝角ほどの紙枠を手にして、開演まで同じ姿勢でじっと黙ったまま座っている。
 この劇の台本と演出をしている永田陽二が開演の挨拶をし、『吾輩は猫である』の冒頭を名古屋弁で語って、一気に漱石の世界へと引き入れて行った。
 原田達也が手にしていた紙枠を手にして、「ある人が私の家の猫を見て、「これは何代目の猫ですか」と訊いた時、私は何気なく「二代目です」と答へたが」と、その紙枠がまるで朗読の台本であるかのようにして読み上げる。
 それで一瞬この劇は朗読劇のように思えたのだが、そうではなくて「小劇」(衝撃:笑劇)であった。
 チラシからこの劇は漱石の『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『夢十夜』『硝子戸の中』『永日小品』の5作品からなるオムニバス形式だということは想像していたが、自分には、よく知っている「猫」と「坊ちゃん」と「十二夜」を主軸にして「硝子戸の中」と「永日小品」はそれをつなぐ接着剤として全体を構成しているように感じた。
 小道具をうまく使いながら4人が台詞を演じ、それらの作品が実に有機的に構成されていて、まさに「幻想劇」にふさわしく、夢幻の世界へと誘ってくれた。
 チラシのほかに、A4を二つ折りにしたプログラムに、この劇の構成と使用した作品の内容の概要が記されていたのだが、自分はいつものように白紙で見る習慣から目を通していなかった。
 そのプログラムを観劇後に見ると、この劇の全体が鮮やかに蘇ってきて、改めてその構成力の素晴らしさを感じた。そのプログラムによると、
 第1話、プロローグとして、『硝子戸の中』の28話から、「黒猫と漱石」、
 第2話、「寒くて仕方がない~天麩羅先生」(『永日小品』の中の「火鉢」と、『坊ちゃん』)
 第3話、「笑ふ漱石」(『硝子戸の中』2)
 第4話、『吾輩は猫である』
 第5話、「訪ねてきた女」(『硝子戸の中』18)
 第6話、「猫昇天」(『吾輩は猫である』)
 第7話、「こんな夢を見た」(『夢十夜』第一夜)
 劇を見ているときはその雰囲気から『夢十夜』で終わりかと思ったが、続いて 第8話としてエピローグの「黒猫再び」で、この小劇が円環構造をなしているようにして結ばれた。
 出演者は、槇由紀子、五明紀之、森田麻知代、原田達也の4人。
 上演時間は、75分。漱石をもう一度読み返したくなる魅力にあふれた劇に感動して会場を後にした。

 

台本・演出/永田陽二
原作/夏目漱石「硝子の中」「永日小品」「坊ちゃん」「吾輩は猫である」「夢十夜」より
8月23日(土)14時開演、阿佐ヶ谷ワークショップ、チケット:3000円、全席自由

 

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