高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
   Pカンパニー第45回公演―シリーズ罪と罰CASE10『5月35日』  No. 2025-015

 1989年6月4日、この日はある人々にとっては「ない日」とされた、消された日であった。その人たちにとっては、この日はカレンダーにはない5月35日ということで表象される。
 この劇の初演は2019年5月に香港で、日本ではPカンパニーが2022年4月に初演し今回はその再演となる。
 この劇は、「その日」から30年後の2019年の6月4日を迎えるまでの、ある老夫妻の数か月の物語である。
 妻のシウラムは脳腫瘍で余命3か月を宣告され、夫のアダイは大腸がんを患っている長距離の運転手。
 シウラムは自分が亡くなった後も夫が困らないようにと、大腸がんの湿布薬や、連絡先の電話番号の控えを作って、自分のことより夫のことを気遣って日々を過ごしているが、そんな姿を見ているアダイはやりきれない気持でいる。
 そんなシウラムは、残された命を6月4日のために日々準備を進めている。
 1989年のその日に亡くなった息子の遺品をネットで引き取り手を求め、無償であげる代わりに15分間だけ自分の話を聞いてくれることを条件にしている。
 6月4日の事件の功績で出世をしている公安の役人であるアダイの弟アペンがネットのサーチでシウラムの動きをキャッチして二人の所を訪ねてくる。
 政府はあの日からの30年後となるその日を、神経をとがらせて注視しているのだった。
 シウラムの計画は、6月4日に、息子が亡くなったあの「広場」にろうそくを灯し、祈りを捧げることであったが、彼女の病は進行し、今や歩行も出来ない状態で車椅子の生活となっている。
 今では夫のアダイのほうが積極的に支援してその日のための実行を準備している。
 しかし、その日、弟とは別の人物が現れて、アダイに「旅」に出てもらうと言う。
 アダイは妻との別れに5分間だけの猶予を貰い二人きりになったところで、裏口の窓から逃走して、あの「広場」へ向かおうとする。と、間もなく、外では警笛が鳴り響く。
 シウラムは車椅子から飛び跳ねるようにして立ちあがり、自分の思いを、目に見えない相手に対してぶちまける。
 そして、彼女を迎えに来た亡くなった息子が現れ、若者たちの群れが集まって来て、「自由の花」の唄を歌う。その声は次第に大きくなり、そして、暗転する。あとは、闇―。
 シウラムとアダイを演じた竹下景子と林次樹が好演、特に林次樹は激演で、終演の場では目には熱いものが溢れて見えた。
 アダイの弟アペンには内田龍麿、息子の遺品チェロを引き取りに来た青年に文学座の小谷俊輔、本を引き取りに来た青年に松永拓野、シウラムを迎えに来た若者と、若者たちの群れ6名、総勢13名の出演。
 この日は満席であった。
 上演時間は、休憩なしで1時間40分。

 

作/莊 梅岩、訳/マギー・チャン・石原燃、演出/松本祐子
8月17日(日)14時開演、
吉祥寺シアター、チケット:(シニア)5500円、座席:A列12番

 

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