高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
   燐光群公演 『KYOTO』 ―COP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議) ― No. 2025-011

 過去にあった事実の舞台化なので結果の予測は出来ているものの、知らないことや見えていなかったことの連続で、休憩なしの2時間30分が緊張と緊迫感にあふれた舞台であった。
 テーマはおよそ演劇的でない内容で、燐光群ならではの硬派の劇で、これはもう燐光群しかやらないであろうし、やれないような内容であった。
 劇の中で地球温暖化の問題について知らない事実が次々と暴かれていくだけでなく、自分たちの利権、利害のみを守ろうとする功利主義に、腹立ちといら立ちを感じざるを得ないものがあった。
 劇の内容そのものについては、問題そのものが現在進行形でもあり、ここに細かく書き連ねてもあまり意味がないので、講演終了後のアフタートークの内容と合わせて感想を記しておきたい。
 当日のアフタートークは、この劇のオリジナルをロンドンで観劇されたばかりの松岡和子さんと、翻訳と演出を担当している燐光群主宰者の坂手洋二のお二人であった。
 オリジナルの原作者も二人であるが、演出者もスティーブン・ダルドリーとジャスティン・マーティンの二人。イギリスでの公演はストラトフォードとロンドンでなされ、ストラトフォード公演とロンドン公演では内容も一部変えられている箇所もあるという。ニューヨークでの公演も決まっているが、そのときは俳優も内容も一部変わるかも知れないと語っていた。
 アフタートークの中で、そのシチュエーションは忘れたが、坂手洋二がこの作品についてシェイクスピア的だと語っていて、上演の時期や場所で作品の一部が変ることについて、とてもシェイクスピア的だと思った。たとえば『ハムレット』、Q1やQ2、それに最初のシェイクスピア全集のフォリオはそれぞれ一部異なっている。シェイクスピアは上演するたびに、この『KYOTO』のように変えていたのも十分考えられることだと想像した。
 日本語の翻訳に当たってはロンドン公演のものをもとにしているが、一部ストラトフォードであった台詞がロンドンでは省かれている台詞も加えているという。
 ロンドン公演は、ウエストエンドで出来たばかりの一番新しい劇場のSHOPLACEで、見本市会場かと見まがうスケールで、舞台美術も豪華であったという。松岡先生は、それと比較して日本では下北沢のスズナリのような小さな小屋で果たして可能なのであろうかと、最初思われたと言う。
 ロンドン公演では、円形の舞台を観客席が取り囲んで観客は会議の参加国の代表のようにして通訳のイヤホンを付けての臨場感あるもので、京都などの風景や、議定書の文書がスクリーンに映し出され、視覚効果が多用されていたという。
 イギリス訪問が10年ぶりという松岡先生がロンドン公演を御覧になったのは、40年来の家族付き合いのある、イギリス在住が38年にもなる出演者のトーゴ・イガワ氏の招きがあってのことだという。
 舞台上では、円城寺あやが演じるサウジアラビアの法律顧問弁護士で、セブンシスター(石油ロビー)の利益を守ろうとするドン・パールマンと、猪熊恒和が演じる温室効果ガスの削減目標と達成期限を設定した「京都議定書」の採択に奮闘するCOPの議長を務めるアルゼンチン出身のラウラ・エストラーダの二人のバトルが終始見ものであった。
 実際の会議でもさまざまな言語が飛び交ったというが、この舞台でも中国語やその他の言語がオリジナルなまま飛び交って、こんなセリフを覚える役者に驚きを感じる程に流暢であった。
 途上国としての若さを象徴するかのように、島嶼国のキリバスの代表を演じた若干20歳だという永瀬美陽も印象的であった。
 各国の代表者は知らない名前ばかりであるが、ドイツだけは元首相のメルケルが代表となっていたのが唯一知っている人物であった。もっとも会議は長年にわたっているので各国の代表者はその間にいろいろ変わっているのであるが、劇の中ではそれぞれの国を象徴して同じ人物が演じている。
 それぞれの代表者を演じているのは、アメリカが樋尾麻衣子、ドイツが咲田とばこ、タンザニアが南谷朝子、日本は川中健次郎、イギリスが葛西和雄、サウジアラビアが鴨川てんし、中国が武山尚史、そのほかの出演に、パールマンの妻シャーリーを高木愛香、シンガーに宮島健、事務局に西村順子と尾形可耶子、オブザーバーその他役に三浦知之。
 重い充実感を感じる素晴らしい舞台であった。

 

作/ジョー・マーフィー、ジョー・ロバートソン、
翻訳/高橋博子、坂手洋二、トーゴ・イガワ、演出/坂手洋二
6月30日(月)14時開演、下北沢、ザ・スズナリ、
チケット:5300円、座席:B列4番

 

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