昭和40年代後半、僕は20代の後半の時代。高度成長の走りの時代であったが、まだまだ底辺の貧しさが残っていたものの、その貧しさを共有する連帯感のようなものが残っていた時代でもあった。
老齢夫婦が管理人の集合住宅が舞台で、管理人のふみを中心に、そこに住む住人たちの日常の中に小さな非日常的な事件をめぐって、懐かしの音楽を挟んで舞台が展開していく。
管理人のふみが小さな庭先にホウセンカの種を植えている場面から始まり、この劇の終盤にそのホウセンカが花開き、ゴタゴタの事件も無事に治まり、管理人夫妻が町内会の旅行に出かけるところで終る。
ふみがホウセンカの種を植え付けているときに言う台詞に、ホウセンカは実を付けるとはじけて元気よく飛散すると語るが、その言葉がこの劇の全体のテーマとして底に流れているような台詞であった。
なつかしい風景は、作った料理のおすそ分けであった。昔は、よくそういうことがあって、そんなところに近所付き合いの連帯感が結ばれていた時代でもあった。
住人の半年分の家賃の滞納にも目をつむり、住人の赤ん坊をあずかって面倒を見たり、若い女性の失踪事件で身を案じたり、管理人のふみには気を休めるときがないが、それが彼女の日常で当たり前の生活となっている。
ミツコが連れて来た口のきけない若い女性ケイコ、そのミツコは知り合った男と結婚の話までなるが騙されて博多のキャバレーに売り飛ばされて行方不明となってしまう。
ケイコは、実は酒造会社の社長の孫娘で、ふみの夫が警察に通報したことでその消息が知られ、迎えに来た祖父の管理人に対する態度から、突然口がきけるようなる。ケイコは両親が交通事故で亡くなって以来、そのショックで口がきけなくなってしまったのだった。彼女の失踪原因は、祖父がよかれと思って進めた結婚話が元であったことも分かるが、ケイコが残した書置きで彼女の気持ちを知ったことで無事に治まる。
騙されて売り飛ばされていたミツコも、ケイコを救ったことからその酒造会社の社長の助力もあって無事に戻ってくる。しかし、彼女は身も心もズタズタにされていて自殺を考えていた。その気配を覚ったオカヤス君が彼女の自殺を思いとどまらせる。オカヤス君は幼い時に両親を亡くし、彼が勤めている会社の前の工場長の世話で今の会社に勤めているのだが、人との会話は勿論、挨拶も出来ない程の無口な青年であるが、ミツコの事件をきっかけに二人のこれから先の関係が明るく見える仲となる。
これら諸々の小事件が無事に治まったところで、管理人夫妻が町内会の旅行に出かける処で終るという、ハッピーエンドである。
ふみをはじめとした半数のキャストがダブルキャストで総勢15名、花組と月組の二つのグループでそれぞれ3公演ずつ、合計6ステージで、僕は花組を観劇。
主演のふみを、花組の鍋倉和子が急遽降板のため月組の杉山ともこが演じ、人を包み込む温かさをにじませて好演、ミツコ役の後藤瑠美の熱演ほか、オカヤス君の江原泰成、ミツコを騙した男次郎役の小松大和など、出演者全員がそれぞれ味わいのある演技で楽しませてくれた。
休憩なしで1時間20分の上演時間を、懐かしの音楽と共に味わい深く楽しませてもらった。
作・演出/妹尾江身子
5月24日(土)15時開演、北池袋新生館シアター、入場料:3500円、全席自由
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