高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
    創立75周年劇団民藝公演 『煮えきらない幽霊たち』       No. 2025-008

 ~ 蘭学事始浮説 ~

 観劇の動機の一つに、登場人物への関心、興味で選ぶことがあるが、この劇もその一つで、平賀源内という人物への興味と、出演者、舞台装置、衣装など民藝ならではの、芝居としての面白さをも期待してのことであった。
 タイトルから想像していたのは、源内をめぐっての幽霊たちが主役と思っていたのだが、「ターヘル・アナトミア」を世に出すまでの苦労と、源内、玄白、良沢らの強い個性がぶつかり合うことから彼らが舞台の主役であり、三人の女の幽霊たちはその四人の死を導いていくということで物語を進展させていくという役回りであると感じた。
 幽霊のきっかけは、玄白らが小塚原処刑場での死体解剖の参観をし、玄白と淳庵、良沢は、玄白と源内の恋人であるお仙とお藤の姉妹の母親である青茶婆の死体を解剖したことから始まる。
 その青茶婆が源内をはじめとする四人に幽霊としてまとわりつき始め、次に病弱であった玄白の恋人お藤が亡くなるに及んで、玄白はお藤に解剖させてくれるように頼む。
 源内の恋人お仙は、源内が誤って男娼の久五郎を殺したことから獄に繋がれて獄中死し、お仙は後追い自殺をして幽霊となる。
 その間には、「ターヘル・アナトミア」の翻訳も完成し、玄白はすぐにも出版したいと思うが、正確な翻訳を期す良沢は反対するものの、最後は、自分の名前を一切出さないという条件で出版を了承する。
 「解体新書」に関することや平賀源内という人物について、史実に関連した部分については大まかに知ってはいたが、それを三人の女の幽霊を絡ませての話にすることで、芝居としての別の面白さを楽しむことが出来た。
 三人の女の幽霊と源内、淳庵、良沢が、最後まで残った玄白の死を待って、84歳の老人となった玄白が息を引き取ると、青茶婆は、45年間幽霊となって付きまとったことに疲れて退散できることを喜ぶ。
 出演は、平賀源内に千葉茂則、杉田玄白に塩田泰久、中川淳庵に橋本潤、前野良沢に西川明、青茶婆に別府康子、お仙に中地美佐子、お藤に新澤泉、腑分けの老人に佐々木研、久五郎に花城大恵、総勢9名。
 史実とフィクションの間を埋める話と、それぞれの役を演じる出演者の演技を楽しむことが出来た。
 上演時間は、途中15分間の休憩を挟んで、2時間15分。

 

作/吉永仁郎、演出/丹野郁弓、装置/堀尾幸男、衣装/宮本宣子
5月12日(月)13時30分開演、紀伊国屋サザンシアター、
チケット:7000円、座席:2列19番

 

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