高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
   Bow第17回公演 『煙が目にしみる』            No. 2025-005

 Bowでは昨年、今回とちょうど同じ時期の第14回公演で、この『煙が目にしみる』を上演している。
 今回は主役の一人北見栄治を演じる鈴木吉行を除いて出演者全員が異なっているが、上演スタイルは前回と同じく、3つのグループ、すなわち、Rare、Medium、Welldoneによる、のべ15日間、各グループ8公演、合計24公演で、しかも各グループ一部の役がダブルキャストとなっていてA、Bの二組となっているので、全部で6組の座組となっている。
 自分はWelldoneのAグループの千穐楽の公演を観劇。
 肉の焼き方でグループ分けしているように、RareからMedium、Welldoneへと進んでいくにつれて、劇の仕上がり度が上がっていくような仕組みを感じさせる、そんな上演形式である。
 鈴木吉行は昨年Rareグループで北見栄治を演じたが、今回はWelldoneで同じ役を演じていて、肉の焼け具合と同じく、しっかりとしたベテランらしさを感じさせたが、何よりも彼の包容力の温かみを感じさせる舞台であった。
 この劇はキャスト次第で主役が変って感じられるが、Welldoneの座組では、白装束の野々村浩介の江古田島平八)と北見栄治の鈴木吉行、野々村家のボケ始めたおばあちゃん野々村桂を演じる丹羽俊輔の3人の、柔らかな笑いを含んだ演技と、浩介の妻礼子を演じた瀬戸ひろみが涙ながらに最後に浩介に向って叫ぶ感極まった演技と涙に、自分も涙が自然にあふれてきたが、この雰囲気はそこにいる全員の空気があってはじめて生じてくるもので、全員が主役であると感じさせるものであった。
 この雰囲気は小さな空間だからこそ共有できる感情で、この舞台である斎場の中に自分も一緒にいて、そこにいる皆と同じように感極まって流す涙と笑いであった。
 話の順序は逆になるがこの劇の始まりで感じたことは、二人の白装束の男が登場してきたとき、自分の身に引き比べて感傷的になったのは、自分の年齢からしてその立場になるのがそんなに遠い先でもないという実感的な印象がより強く感じられたことからであった。
 実際の死ではどんな死も、本人にとっても周囲の者にとっても幸せな死というものはないと思うが、この劇を観終わった時には二人の死が幸せな死であると思わせるものがあって、自分の死が自分にとっても周囲の者にとってもそんなものであればいいと思いながら、つい感傷的な気持になって観ている自分がいた。この劇を観るのは今回で5回目となるが、上演する劇団や劇場の違いによってその都度感じかたも移り変わっていくようだ。
 カーテンコールの挨拶で野々村浩介を演じた江古田島平八の言葉が印象的であった。
 40歳になって自分の好きなことをやろうと決心して役者の道を選び、この度主役を演じることになって、この日無事千穐楽をやり終えたという感動から、「好きなことを一生懸命頑張ってやれ!」という劇中の言葉をそのまま借りて、力強く観客に向って発した。その横で、シェイクスピア全作の主役や主要な役を演じて芸歴40年を超える鈴木吉行が彼をサポートしている姿が、さわやかな温かみのある包容力で、観ている方も心温まる気持で感動させられた。
 最後に明らかになる、借りたままになっているビデオのいわれが分かった時も感動的なシーンである。
 まさにWell-doneの劇であった。
 その他の出演者は、野々村の長男亮太に渡邊純、長女早紀に志水もえの、北見栄治の娘の乾幸恵に渡邊百香、北見の若い恋人瀬能あずさに四宮菜々子、野々村の従妹の原田泉に仁科ナナ、その夫正和に桐谷直希、レンタルビデオ屋の店長に伊藤駿九郎、斎場の管理人に唐木翼弥。
 上演時間は、前回同様、休憩なしで1時間30分。


原案/鈴置洋孝、脚本/堤泰之、演出/桒原秀一・平松香帆
4月12日(土)13時開演、オメガ東京、チケット:4800円、全席自由

 

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