上野敏彦著『沖縄戦と琉球泡盛』(明石書店)に触発されて書かれ、タイトルもそのまま借りての作品だという。
琉球泡盛の製法や名前の由来、古酒についての蘊蓄が劇の大半を占め、泡盛について興味が増す。
泡盛の由来の一つに原料が粟であるという説と、製造過程で出る泡が盛り上がってくるという説があり、後者の方が有力らしい。原料がタイ米であったというのも初耳であった。
この劇のテーマは前半部のこういった内容より、古酒は何十年、何百年と寝かせる必要があり、そのためには平和でなければならないが、先の戦争で古酒が全部失われ、かろうじて残っていた古酒によって復活させることができたという。
沖縄の基地問題だけでなく、宮古島や石垣島、与那国島など南西諸島に、今やなし崩し的に次々とミサイル発射装置などが配備されていっている現状が、劇の後半部で切々と訴えられる。
八重山諸島の小さな酒蔵には、将来のための古酒を保存するための倉庫やタンクが新たに設けられていっているが、戦争となれば先の戦争と同じ結果を招くことになる。
しかし、島の人たちは「そのときは仕方ないねぇ~」という。
この問題については複雑な気持である。
一般論としては、ミサイル発射装置の配備など反対であるが、いま、南シナ海で起こしている中国の問題や、ロシアのウクライナ侵攻、それに派生して生じてきたフィンランドのNATO加盟など、きれいごとでは済まされない現実の問題がある。一旦事が起これば、まず犠牲になるのは沖縄とその周辺の島の人たちである。
何も起こらないという保証がどこにもないとすれば、正論では済まない問題である。
坂手洋二があげる声には大いに共感するが、現実と向き合うとき複雑な心境となる。
出演は燐光群のメンバーをはじめ、吉村直も出演していて、総勢16名。
平日のマチネであることと内容が内容であるだけに、観客のほとんどが高齢の男性で、女性(も高齢者)は1割程度であった。
上演時間は、休憩なしで2時間20分。
作・演出/坂手洋二
12月2日(月)14時開演、吉祥寺シアター、チケット:4200円、座席:E列7番
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