高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
    南谷シップ リーディング・ライブ 
   『雨の中、三十人のジュリエットが還ってきた』   
        No. 2024-031

 南谷朝子が清水邦夫の木冬社を離れて1994年に立ち上げたNANYA-SHIPは、、歌の活動から演劇活動をしばらく休止していた後、清水邦夫作品を上演したいという友人たちとの出会いや再会から、その上演を続けているという。その活動を、このたび、出演者の一人である芳尾孝子さんから案内をいただいて、貴重な体験をすることができたことを感謝したい。
 この朗読劇の演出をしている富澤正幸の「ご挨拶」の言葉の中に「劇詩人・清水邦夫の台詞」とあったが、僕は、台詞もさることながら、清水邦夫の長いタイトルにもその詩情を感じていて、機会があればできるだけ清水邦夫の劇を観たいと思っている。
 『雨の中、三十人のジュリエットが還ってきた』を観るのは二度目だが、今回はリーディングライブという形式であったが、MANDARAというライブハウスの空間での朗読劇は、舞台から最前列の席での観劇はまさにライブの感覚であった。
 髄の「語り」から始まるこのリーディング劇は、ギリシャ悲劇を思わせるようで、ジュリエットを演じる風吹景子とロミオの代役を演じる夏子、それにかつての風吹景子の相手役であった弥生俊とその妹(実は娘)理恵を中心として、代役ロミオを演じるかつての「バラ戦士の会」のメンバーたちや、かつての「石楠花少女歌劇団」のメンバーたち(3人の女性たちが演じる)が、彼女らを取り巻くコロスの役割を演じているのを感じた。
 劇中、「石楠花少女歌劇団」の名前のもとになっている島崎藤村の詩、「壮年」の一節「4 草枕」と「5 幻境」の詩が、戦士の会のメンバーと石楠花少女歌劇団のメンバーたちから朗読されるくだりは勿論のこと、詩的なフレーズや台詞が数多くあり、それを聴くだけでも耳を楽しませてもらえた。
 登場人物の中で最もリアルで印象的だったのは、この劇のヒロインで風吹景子を演じた都筑香弥子。彼女がジュリエットを演じているとき、彼女は10代から20代初めの年齢となっているが、時折、現実の年齢に引き戻された時の彼女の表情が、演じる都筑の実年齢(彼女の年齢は知らないが)と重なって見えた。
 彼女が30数年間眠っていて今目覚め、バラ戦士の面々がその彼女の為に『ロミオとジュリエット』を演じることで、彼女の記憶を呼び覚まそうと、唇に真っ赤な口紅までつけて必死にロミオを演じる。そのかつてのバラ戦士たちを演じる俳優たちも相当の年配であり、妙にリアルさを感じた。
 この朗読劇の印象は、劇中に詠われる藤村の詩の「幻境」の一節を引用して替える。

  ふと目は覚めぬ五(いつ)とせの
  心の酔(ゑひ)に驚きて
  若き是(この)身をながむれば
  はや吾(わが)春は老いにけり

  夢の心地も甘かりし
  昔は何を知れとてか 
  清(すず)しき星も身を呪ふ
  今は何をか思へとや

 出演は、主演の都筑や語りの髄の外、弥生俊に南谷朝子、その妹理恵に新井理恵、夏子に彩萌、バラ戦士の一人某百貨店の専務の坪田に大島宇三郎ほか、総勢15名の出演。

 上演時間は、休憩なしで110分。


作/清水邦夫、演出/富澤正幸、ドラマトゥルク/中原和樹、音楽/南谷朝子
10月1日(火)15時開演、南青山MANDARA、
チケット:4300円+ドリンク代700 円、全席自由

 

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