出演者による情報と案内で、また新たな団体(劇団)と出会うことができた。
チラシの案内によると、フォーリンプレイシアターは1988年に旗揚げし、2003年まで「本邦初訳」の海外の戯曲を毎年翻訳し、年1本のペースで上演してきたが、その後活動休止して2020年に復活公演するが新型コロナウィルスの洗礼を受けながらも今日に至る。
今回の『ブレイク・ア・レッグ』は1997年の第10回公演で上演され、今回は翻訳を改めての再演となる。
英語のタイトルにつけた翻訳で、わざわざ「足の骨、折っちまいな」とあることから、この劇の内容について、上演の評判の悪さから「足の骨を折ってやめてしまえ!」の意ではないかと思ったことと、今一つは、やっと上演できる段になって、主演者が足の骨を折って上演が出来なくなったということを勝手に想像していた。
ところがこの劇の第1幕の終わりで、この劇の主役である大学教授のテーレンスが、自分の書いた戯曲を上演するにあたっての投資家をやっと得て、公演の成功を祈念して「足の骨を折っちまいな」と言うとその投資家たちが驚くが、テーレンスはショービジネスの世界では、幸運を祈ると運が逃げるので「足の骨を折っちまいな」と逆のことを言うのだと説明する。
そこで改めて'Break a leg'の意味を調べて見ると、「がんばれ!」や「(俳優に向って)成功を祈る」という意味に加えて、俗語として「妊娠する」や「女と寝る」の意味があり、テーレンスとかつての教え子アンジーとの関係から、この俗語の意味まで深読みしたくなる劇であった。
劇は、ユーモラスで、サスペンス風なところを含んでいて、面白く、楽しんで、刺激的な話の展開にぐいぐいと引き込まれていった。
ベルギーやスイス、スエーデンなどヨーロッパで成功を収め、ニューヨークではバッファローで好評を博した大学教授のテーレンスが、自作の戯曲をオフオフブロードウェイでの上演するための資金集め奔走するがすべて断られ、最後に、かつての教え子アンジーの父親ルウのイタリアレストランを訪問する所から始まる。
ルウが集めた投資家たちは芝居の事は何も知らない連中たちで、実業家のマイク・フランシスコは一見マフィアのボスのようで、言動も風貌もマフィアそっくりである。もう一人の仲間、ティーノウは不動産業者で彼も演劇については全く無知である。
マイクはテーレンスの要望額とは桁違いの百万ドルの資金提供を申し出て、テーレンスを慌てさせるだけなく、その破格の申し出に、自分の戯曲の出来えにそれだけの価値があるかと疑問を懐き始める。
そんな会話の中で、マイクらの友人で競馬気違いのフランキーがひょっこり現れる。彼は競馬でマイクらに2千ドルの借金があって彼らから追い詰められるが、最後にはマイクが借用書代わりのメモ紙を破って食べてしまう。
許されたようにしてフランキーはその場を立ち去るが、彼の後をマイクとティーノウも追っていく。
フランキーは、その翌日鉄道の轢死体で発見され、そこに何となくマイクらの仕業ではないかと疑念が湧いてくるサスペンス風なところがある。
フランキーが追い詰められる様子を一部始終見ていたテーレンスは、自分の戯曲が失敗した時の損失で、マイクらからフランキーと同じような目に逢うのではないかという恐怖心を抱き、上演を取りやめようと思い始める。
一旦、投資を承諾したマイクたちは次々に、舞台に自分たちの近親者を出演させる要望を押しつけ始めるが、テーレンスを恋い慕っているアンジーの助け舟によって、契約条件も自分の思い通りの条項で決めた上、すべての申し入れを拒否する。
アンジーとテーレンスとの二人の関係が、'Break a leg'のもう一つの意味、「女と寝る」と関わっているように見える。
登場人物のそれぞれの役を演じる出演者の演技が見ものであった。
一番強烈なイメージは、マイクを演じた岡本高英。マフィアのボスと見紛うほどの風貌と、小学校を中退した学歴しかない知性をむき出しにした語り口の台詞回しなど、彼の芸の懐の深さに感嘆して見入った。
この劇の翻訳者でもある主役のテーレンスを演じた松村穣が口をあんぐりと大きく開けて驚きの表情を表す演技などにも目が離せなかった。
後半部で魅力あふれる圧巻の演技と迫力を見せたルウの一人娘アンジーを江田かよ、その父親ルウを表現力豊かに演じた吉田潔、クールな雰囲気を漂わせる不動産業者のティーノウ役の三國志郎、そして不慮の死を遂げる競馬気違いのフランキーを演じた野渡義昭など、戯曲の面白さと相まった出演者の演技力で、それぞれがそれぞれの役で魅せてくれ、役者の魅力をたっぷり味あわせてくれる舞台で、それに舞台美術も劇の雰囲気にピッタリで非常に良かった。
上演時間は、休憩なしで90分、濃縮された面白さいっぱいの舞台であった。
作/Tom Dulack、翻訳/松村 穣、演出/白土 満、舞台美術/松野 潤
9月29日(日)14時開演、下北沢・駅前劇場、チケット:5000円、全席自由
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