高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
    劇団AYS 第4回公演 『陰陽道』               No. 2024-023

 一年ほど前に、この劇の作者で演出者の芦屋透から、僕が親しくしている5人の俳優が総出演する劇を上演する計画を聞かされていて、内容も何も知らない状態であったが、その5人が総出演するというだけで楽しみにしていた。が、彼ら以外にこれほどの人数が出演する大掛かりなものだとは想像もしていなかった。
 まずはそのスケールの大きさに驚かされた。劇場自体は150席ほどの小劇場であるが、内容のスケールの大きさと、紗幕を使って舞台を二重に活用し、映像を駆使することなどで舞台が実際以上に大きく見えた。
 当日手にしたチラシの人物リストで登場人物のスケールの大きさを感じただけでなく、登場人物のネーミングにも興をそそられた。ナント、この劇団の主宰者であり、この作品の作者であり演出者である自分の名前を冠した人物を主人公に持って来ている。すなわち、芦屋道長をはじめとしてそしてその一族に、芦屋了徳、芦屋影光と芦屋萩花(しゅうか)の父娘など。
 この劇の幕開けに「セイメイ!」という大きな声が聞こえたが、自分にはそれが何を意味しているのか分からなかったが、この劇に登場してくる重要な人物、安部晴明(あべのせいめい)が登場してきて初めて彼の名であることが分かった。
 登場人物のネーミングに興味があったのでブリタニカ国際大百科事典などで確認してみると、「安部晴明」というのは実在した人物で、藤原道長(この劇では芦屋道長となっている)とも関係ある人物であることも分かった。安倍晴明は平安時代中期、賀茂忠行・保憲父子の陰陽道の弟子で、彼の時代に陰陽道が隆盛を極め、保憲の子の家栄に暦道、晴明に天文道が授けられ、以後賀茂・安部両家がそれぞれの陰陽道が相伝され、家業とされたとある。
 そしてこの劇は、平安時代から千年後に再び芦屋家の芦屋道満によって陰陽道を伝える芦屋・安部両家の消滅の危機が迫っていることから始まる。千年前にも同じように道満によってその危機があり、その時に白虎や安部清明は命を落としており、白虎の子供「ハク」が千年後の危機に立ち向かう。
 物語は千年前と千年後が交錯して舞台上に展開されていき、今起こっている危機の状況がどんなことに由来しているかが徐々に見えてくる。
 道満は一旦消え去るが、彼は他人の体の中に潜んでいて、それが突如乗り移った状態で出現する。今は道長の叔父である影光の体の中にいる。道長は陰陽道の力を持たないのだが、自分の持つ力を使えば道満を倒すことができるが、その力を使えば彼は死ぬことになる。白虎の子であるハクがいればその力を使わずに道満を倒すことができるのだが、ハクは人質となっている倉橋麻耶を助け出すために別の場所にいる。結局、道長は自分の術で道満を倒し、自分も命を落とすことになる。
 話を簡単にすませばこんな結論の劇であるが、最初に書いたように登場人物のネーミングが面白いだけでなく、そこにいろんな意味が含まれていて、それが登場人物のキャラクターとも重なっているのが興味深い。
 ヒロインの「天后」の名前は、伝説によれが10世紀半ばに中国の福建で生まれた女性でのちに昇天し、海難救助などに霊異を現したことで朝廷から天妃・天后に封じられ、船乗りが信仰した水神で、日本にも沖縄を経由して伝わってきたという。道満の襲撃から護るのは「白虎・青龍・朱雀・玄武」の四神と、天地、宇宙全体を意味する「六合」、それに室町時代の御伽草子がから抜け出してきた名前の「酒呑童子」と「茨木童子」など、多士済々。知人の一人である菊地真之が白虎を演じる。
 同じく5人の知人の一人で、千年前から生き続けている「貴人」の倉橋秀美は、本名がその名となっている。これにも意味があり、倉橋という姓は安部氏の遠祖に当たる大化改新時の左大臣安部倉梯麻呂で、その子孫である倉橋家は代々陰陽道を家業としている。現在その術は封印されているが、この危機に臨んでその術を使って自らの身を亡ぼすことになる。
 同じく千年前から生き続けている職神の「大陰」のお竹に北村青子、「天空」のお石に白井真木も倉橋秀美と運命を共にする。
 そして、陰陽道としての主人公である安部晴明役の女鹿伸樹も我が知人の一人。彼ならでは陰陽道師としての演技、表情が見どころで、キャスティング納得して観させてもらった。
 劇の内容も楽しませてもらったが、この5人のそれぞれの役柄にも興味をもって観させてもらった。というのも、彼らの役柄はまったく、あてがきされたような登場人物で、それだけに親しみがより深く感じられた。
 知人ばかりをあげたが、総勢29人の出演者全員がそれぞれのキャラを発揮して、そのキャラ自体も楽しませてもらった。芦屋道長には矢嶋友和、影光に宮崎聡、この劇のヒロイン天后に有馬莞奈、酒呑童子に中谷中など、書き記すに余りある。
 上演時間は、途中10分間の休憩を入れて、2時間30分。熱気にあふれる舞台を堪能させてもらった。


作・演出/芦屋 透、美術/前田圭一、映像/蝉丸、衣装メイク/鳴海貴絵、Cherry&may
7月28日(日)14時開演、武蔵野芸能劇場・小劇場、チケット:5000円

 

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