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開演とともに、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」の詩が、ゆっくりと、落ち着いた、はっきりとした声で朗読される。宮沢賢治に扮してこの詩を朗読したのは、桑島義明。
最初の舞台は、芥川龍之介作の『二人小町』。小野小町に地獄からの使いが来て、小町はまだ二十歳の歳で、お腹には深草の君の子を宿していると言って、二人の命を奪うことになると必死に死から逃れようと抵抗を試みる。地獄の使いは、同じ年恰好で同じ名前の者がいればその者を代りにするという条件を出す。小町は玉造小町の名をあげ、地獄の使いの手から無事に逃れることが出来る。しかし、玉造小町も同じように使いの手から逃れる。
そして月日が経ち、今は年老いた二人の小町は早く死が迎えに来ることを願っている。老いた小町はシンとして、その陰に若い時分の小町を伴って地獄の使いの前に現れ、早く迎えに来てほしいと頼み込むが、二人とも断られてしまう。地獄の使いを手玉に取った報いが返ってくるという話である。
小野小町に植松りか、老いた小町のシン・小野小町に松原未知、玉造小町に中島佐知子、シン・玉造小町に杉山ふみ、地獄の使いに高山真利、地獄の三十番神に桑島義明や松本淳などが出演。約30分間の上演。
続いて休憩なしで、岡本綺堂作の『人狼』。
元武士で今は浪人の身で猟師を生業としている弥三郎の妻いよに狼が乗り移った話。
いよは貧しき中にも夫の弥三郎と、その妹妙との三人で仲睦まじく暮らしている。三人が暮らしている村に狼が出没し、人が襲われるという事件が続いており、弥三郎をはじめ、猟師たちが必死に追い求めているが見つけることが出来ない。が、あるとき、小坊主の昭全が狼に襲われ、その狼の姿が「いよ」に間違いないと村人たちに吹聴する。いよは自分が浅ましい狼となって死肉をあさり、人を襲うことに自責の念に駆られ自殺を図るが、通りかかった宣教師のモウロに止められ、彼女の家に連れていかれる。そこで諄々と諭されてマリアの像を授けられ、モウロの同居人で弟子の盲目の夫と聾啞者の妻の二人に家の近くまで送ってもらって帰る。
しかし、その夜もいよに狼の吠え声が聞こえ、ついには義妹の妙を襲ってしまう。そして、狼を追っていた夫が逃げて行く狼の姿を月明かりで認め、銃で仕留める。月明かりで見誤ることはないと思っていた弥三郎は、そこに横たわっているのが妻のいよであることに驚愕する。
時代設定からくる独特な言葉遣いが耳に優しく、幽境な世界へと誘う劇であった。
出演は、いよに田中香子、夫の弥三郎にますみ、義妹の妙に藍朱魅、宣教師のモウロに杉山ふみ、小坊主の昭全に近藤由香梨、猟師に松本淳、桑島義明、植松りか、他。上演時間は65分。
この公演は、いよを演じた田中香子さんの案内で観劇する機会を得たのだが、彼女はシェイクスピア劇ではマクベス夫人を演じるかと思えば、『リア王』で道化を演じ、『夏の夜の夢』ではピーター・クインス、『から騒ぎ』でドグベリーなどの喜劇的人物を演じたりしているほか、かつてシアターXで上演されていた名作劇場では清楚な役を演じ、真逆の演技を堪能させてくれているが、今回の舞台では名作劇場での演技を彷彿させて楽しませてくれた。
また、松本淳や桑島義明は、板橋演劇センター公演でシェイクスピア劇に出演しているのを何度も見ていたので、懐かしくもうれしい気がして見させてもらった.
シェイクスピア劇の観劇を通して知り合うことが出来た俳優との出会いを楽しんだ一方、ペルソナとの初めての出会いが出来たのもうれしいことの一つであった。
芥川龍之介作 『二人小町』、岡本綺堂作 『人狼』
演出/幕入明
7月14日(日)13時開演、中板橋・新生館スタジオ、料金:3700円、全席自由
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