北村青子のひとり芝居
南青山の古いアパートの一室で、十文字セツ子が語る「奇妙な物語」のシリーズ、第7回目。
しとしとと雨の降る中、音楽に乗せられて客席後方からピンクのレインコートに同じくピンクのビ ニール傘をさして登場してくる十文字セツ子を見て、蜷川幸雄演出の『近松物語』の舞台イメージを想起した。
セツ子は、仲間の観客からは不人気で総スカンをくった朗読会から戻ってきたところ。
古いアパート、といっても実は取り壊しで残された納屋に過ぎないのだが、その納屋には大家の妻が買ったまま一度も弾くことがなかった古いピアノが置かれていて、雨の日は雨漏りがするようなところである。
朗読会では、みなが帰った後に一人だけ子供が残っていて、その少女は頭に鉢をかぶっていて、それを見てセツ子は自分の小学校時代を思い出し、『お伽草子』の中から「鉢かつぎ」の物語を語り、続いて「カメムシおばさん」「なりすまし」「改造」「景色」、そして詩と童話「雨の女」と朗読を続ける。
北村青子の一人芝居の、詩のような台詞の語り口と、表情の変化の妙技を楽しませてもらった。
朗読の内容は、上田秋成の『春雨物語』と『雨月物語』の序からと、あとは竹内紀子の作品集からの構成。
1時間という短い時間であったが、しばし異界の世界を彷徨する楽しみを味わった。
5月18日(土)13時開演の部、南青山 ZIMAGINEにて、
料金:3500円(別途ドリンク代)
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