昨年の、なかの芸能小劇場「神田伊織のネタおろし連続講談会」に続く「伊織のおんな」シリーズの第1回。
昨年の神田伊織は、このネタおろし講談会に明け、一年中ほとんどネタおろしに追われて休む暇も、考える暇もなかったということで、今年はその「ネタおろし」のシバリを外してもらったという。
ところが、昨年、「伊織のおんな」シリーズを企画した段階から、女性ファンの方から講談の女性はワンパターンが多いので、それとは異なったものをやって欲しいという要望があり、いろいろ漁って見たが結果的にどれもこれも、講談に出てくる女性はワンパターンであることが判明し、せっかく「ネタおろし」のシバリを外したのに、今回も結局ネタおろしとなったという。
そのマクラから、話は昭和天皇が亡くなった昭和64年1月7日の夜の渋谷のスナックの場面から始まる。
スナックのママはナミキ。その夜、集まった客たちは、天皇が亡くなった日でもあることから、カラオケは誰からともなく童謡を歌うことになり、懐かしい歌をみなで歌って、深夜12時に店を閉じ、そこから並木路子の生涯の話へと移っていく。
この講談会は年配者、高齢者が多いので大半は並木路子の名前は知っていると思われるが、通路を挟んで自分の左隣に座っていた知人のKさんは自分よりずっと若い世代ということもあて、並木路子の名前を知らないだけでなく、講談の話の中に出てきたターキーこと水の江瀧子の名前すら知らなかっことで、時代の差を感じさせられたものの、並木路子の名前は知らなくても「リンゴの唄」だけは知っていた。
並木路子が所属していた松竹歌劇団(SKD)については、講談の話を進める中で、木の実ナナがマドンナ役で出演する映画「寅さん」シリーズでその楽屋裏風景まで見ることが出来ると紹介する。
この『並木路子』については、2021年12月に、阿佐ヶ谷ワークショップの伊織会公演で一度披露されたことがあってそのことを記憶していたが、今回はさらにその内容を膨らませたものとなっていた。
講談は古典の軍団物や世話物があるが、今回のようなネタを勝手に「評伝物」として名付けた。
中入り後は、趣きをガラリと変え、照明を半分落した薄暗い高座から、女の一人の語りの物語。
話を聞いていくうちに、その趣きが泉鏡花か、谷崎潤一郎の小説の中の世界のように感じられ、妖艶で、ミステリアスな一種怪奇的な内容に、興味津々として話の中にぐいぐいと引き込まれていき、語りの妙味を味わった。
語り終えたところで、この作品が江戸川乱歩の『人でなしの恋』ということが明かされた。
講談の世界にそれほど詳しくないが、今回のネタのような講談は、講談の新しい境地の世界として今後の展望としても楽しみな企画だと感じた。
第2回が3月、第3回が5月とシリーズが続けられるが、次のネタが楽しみである。
講演時間は、中入りの10分間の休憩を入れて、2演目で1時間50分ほどであった。
1月20日(土)10時開演、なかの芸能小劇場、木戸銭:2100円
≪参 考≫
阿佐ヶ谷神田伊織会 第1回公演
開催日:2021年12月19日(日)14時開演
場 所:阿佐ヶ谷ワークショップ
演 目:第一席 玉川上水の由来
第二席 並木路子
●第二席 並木路子 (ネタおろし)
戦後一世を風靡した「リンゴの唄」で有名な並木路子の生涯の話であるが、そのマクラで「リンゴの唄」も、ましてや並木路子の名前も知らない人が増え、知識の共有がないと話も進めにくくなっているが、師匠の神田香織が戦争の語り部として創作作品を演じているのを引き継いでいきたいという気持からこの作品は生まれている。
並木路子は、東京大空襲で母親を隅田川で亡くし、父と兄も戦地から帰国の途路の船が撃沈され水死し、肉親三人が水に関係して死んだ挿話を通して戦争(の悲劇)が語られる。
戦争をそのままを語るのではなく、一人の人気歌手であった女性の生涯を通して、隠れたテーマとしての戦争を語る創作で、何気ないように挿入された戦争の話がかえって強烈に心に残る作品である。
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